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「じつはその隕石が衝突した日というのが今日なんだよ。向こうでは居酒屋じゃなく喫茶店だったんだけどね。私はここで轟音と激しい振動に襲われ、様子を見に外へ出たところであの瞬間に遭遇した……その運命の時間まであと数十秒ほどだ」
そんな彼をポカンとした顔で見上げていると、清算を済ました彼は再び話を始める。
「だから、なんとか向こう側に戻れはしないかと、毎年、この日に私はここへやって来ては、あの日と同じことをずっと繰り返しているのさ。異世界…ましてや違う世界線へ飛んでしまうことなんて、意外と簡単に起きてしまうことなんだよ……いや、今夜は邪魔したね。それじゃあ、ちょうど時間になったんで私はこれで……」
そして、腕時計を眺めながらそう話を締めくくると、入口の引戸を開けて店の外へと出てゆく。
「…………」
一瞬の後、ぴしゃりと閉まったその引戸を、俺も友人もただただ呆然と見つめていた。
いや、外へ出た男性がその後どうなったのか? それはわからない……特に轟音も振動も起きてはおらず、店内は酔っ払い達の喧騒で相変わらず満たされたままだ。
無論、男性の試みの結果を知るのはいとも簡単なことだ。あの引戸を今すぐ開けて、ちらと外の様子を見るだけでわかる……。
だが、なんだかそれをしてしまったら、自分達も世界線を越えてしまうような気がして、言い知れぬ不安に駆られた俺達は、どうしてもそれをすることができなかった……。
(世界線を越えた日 了)
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