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「まあ、正確にいえば異世界というより並行世界へ転生したというべきか……あの時、私は死んだとしか思えないから、転移ではなくやはり転生なのだろうな……」
だが、男性は友人のことなど意に介さず、その異世界転生…いや、並行世界転生か? とにかくその転生したという特異な体験の話を、グラスを見つめたまま訥々と話し続ける。
「君達、〝ノストラダムスの大予言〟というのを知っているかね?」
「ああ、はい。20世紀末に世界が滅ぶって云われてた終末論ですよね? リアルタイムじゃないけどなんとなく知ってます」
「確か、恐怖の大魔王が天からやってくるとかなんとか……」
なぜだか突如としてオカルトめいたものに話が逸れたが、俺と友人は面食らいながらも、わずかに持っていた浅い知識でなんとかそれについてゆく。
「1999年7の月、空から恐怖の大王が降ってくる。アンゴルモアの大王を復活させるために……これが16世紀フランスの占星術師ミッシェル・ノストラダムスが記したという予言の詩だ。これを当時の我々は人類滅亡を意味するものと捉え、誰もが恐怖のどん底へと突き落とされた」
細かいところは微妙に違っていたが、どうやら俺達の認識はだいたい合っていたようだ。
「でも、何も起きなかったんですよね? 俺らがこうして無事にいるのが何よりの証拠だ」
あえて訊くまでもない、至極当たり前のことではあるが、俺は相槌を打つ代わりにその歴史的事実を一応確認してみる。
「そう。その通りだ……君らの暮すこちらの世界ではね」
ところが、男性は再びこちらへ眼を向けると、なんだかもったいぶった様子で意味ありげな言い回しを敢えてしてみせる。
「だが、私のもといた世界──世界線といった方がいいのか、そこでは予言通りに確かに〝恐怖の大王〟が空から降ってきた……恐竜の時代を終わらせたとされるものよりもはるかに大きな、巨大隕石という名の恐怖の大王だ」
俺達は、予想外すぎるその展開に思わず息を飲む。
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