特別じゃない私の一日

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「実は、さち子の他に付き合っている子がいるんだ」  雨の中の喫茶店で、彼が淡々と私が既に知っていた事実を公表した。  私は驚きもせずに煌めく銀色の彼の腕時計と真新しい指輪を見つめる。恐らく、このあとに続く言葉は良くないものだ。 「その子、妊娠しちゃってさ。それで、俺の子なんだけど」  やっぱりそうだった。私の眉がぴくりと動く。 「本当にさ予想外というか、ほら妊娠って奇跡みたいなものじゃないかな?」  何が奇跡だ。やることやったから出来たんだろ。 「だからさ、別れよう」  私は抵抗もせずに別れを受け入れた。彼は笑顔でお礼を言って、この場から去っていった。  最初に彼を好きになった部分は笑顔だった。映画を観に行って、彼の半券を拾ったのがきっかけだ。  私は特に映画好きではなかったけれど、また会えるか期待して足繁く映画館に通うようになった。  すると、五回目辺りだろうか。彼と再会できて、上手く意気投合できた。  なんとか彼に気に入られようと彼の好みに合わせて猫を被り続けていた。  そしたら、付き合えることになって、最初は期待していなかったけど、三年も一緒にいるから将来的なことも期待していた。  私は大きく溜め息を吐き項垂れる。ドラマや映画で何度も観ていたこういう出来事が私に降りかかるとは思っていなかった。
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