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「んもぅ、ほんとにびっくりしたんですよ。いないから先輩」
名護から再びかかってきた電話は、苦情めいた言葉で幕をあけた。
「すまん……」
「昨日、私めっちゃ怒って、もーってなりながら大学の喫茶店行ったんです。で、ジュース飲みながら、なんなの、もーって。ほんとに怒ってたんですよ?」
「……本当にごめんなさい」
「でも、よーく考えたんです。いくら何でも先輩ハチャメチャだったなぁって」
ハチャメチャって久し振りに聞いたなぁ。
「確かに意地悪なところありますけど、ほんとにやだって言ったらいつもはちゃんとやめてくれるし。で、なーんかおかしいなぁって思ったんですよ。そういえば最初に見た時、ちょっと具合がですね、悪そうだなって思ったんですよ。凄くないですか、私?」
「凄い」
「もっと褒めてください。褒められて伸びるタイプです」
「……仰る通りです。名護様、あなたは素晴らしい」
「そう言う事です。その態度を大切にしてくださいね」
あはは、と軽く笑ってはいるが、その端々に怒りの残り香を感じずにはいられない。
「その辺確かめなきゃと思って、授業前に待ち伏せしてたんです。だって、必修ですから、絶対落とせないじゃないですか。でも、どうせ先輩の事だから、自主休講をフル活用して、出席はギリギリで調整しているはず。後期試験も近いとなれば、間違いなく来るだろうと」
「実に見事な推理だな」
「でしょう? でも先輩が来ない。もー、なんでよってなるじゃないですか。忘れてんのかな、と最初は思いました。先輩そう言うところあるから。でも、ひょっとして昨日具合悪そうだったから、もしや寝込んでいる可能性もワンチャンあるのではと思ったわけです」
返す言葉も無かった。
彼女の推理の悉くは見事に的中していたわけだ。
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