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目を閉じても眠れぬまま時が流れ、授業は無事終わりを迎えた。講義の言葉は右から左へと全て流れていき、もやもやとした気分だけが胸の中に激しく渦巻いていた。
壁に拳でも叩き込んでぶち割りたい気分でもあった。
もちろんむちゃくちゃな話ではある。
壁を拳で叩き割るなんてできないし、名護とイケメンが喋っているからって腹を立てるのだって間違っている。
だが、どうにも心に手綱を上手くかけられなかった。
一刻も早くこの場から去ろう。
思い通りに動かぬ足に鞭を入れ、俺はできるだけ早く大教室を出ようとした。
だが、そんな俺の努力をあざ笑うように名護は俺を見つけやがった。
「あ、先輩じゃないですか」
気軽な声をかけてきた彼女は一人だった。
先ほどのイケメンの姿は見当たらない。
それは喜ぶべきことのはずだが、俺の口は実にひん曲がった事を言った。
「さっきの奴は?」
「さっき?」
「なんか、声かけられて話してたじゃん」
「ええ? 見てたんですか? やだなぁもう、じゃあ、助けてくださいよぉ」
苦笑い。
あるいは気まずそうな顔にも見える。
助けてください、なんて言ってるけどさっきは笑顔で話してたじゃないか。
胸が、あるいは気持ちが泡立つのを感じた。
「てゆーか、先輩、なんか……」
名護が何か言おうとしたのに構わず、俺は口を開いた。
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