わたしが世界を救ったなんでもない日

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「こ、こんにちは、どすえ?」  きれいな顔から発せられる、奇妙な呪文のような挨拶らしき言葉にわたしは思わず吹き出してしまった。その表情に違和感を覚えたのか、彼女はバツの悪そうな顔をした。 「あれ? この地域の言葉で挨拶したつもりなのですが、何か間違ってましたか?」 「わたしだってここが地元じゃないから確かなことは言えないけどさ、少なくとも大学でそんな話し方してる人は見たこと無い」  京都出身ではないわたしでも彼女の挨拶がおかしいことくらいは分かる。わたしの通っている大学で日常的に、どすえなんて語尾の人間は一人も居ない。 「それに、その目立つおかしな格好もどうにかしてくれない?」  言いながら、変に目立ってはしないかとあたりを見回す。しかし、騒ぎになっていないどころか、誰一人としてこちらに目をくれてもいなかった。もしかすると、彼女はわたしにだけ見えているのだろうか? それはそれで幻覚かもしれないと疑わなければならなくなるのだが。  わたしの言葉が引っかかったのか、彼女は「おかしな……」とうつむき加減に口の中で唱えていた。 「少し待ってください」  すると、謎の光に包まれて彼女の姿が見えなくなり、次の瞬間にはクリーム色のセーターに深い紺のワイドパンツという、普段のわたしよりもちゃんとした服装に変わっていた。子供の頃見ていた魔法少女の変身みたいだ。  感心していると彼女は「勉強の成果です」と得意げに胸を張った。なら、最初からその格好で来てよ、とわたしは呆れたが口には出さなかった。 「もう一つ」 「まだあるんですか? 注文が多いですね」今度は彼女が呆れた。 「そのふわふわ浮くのやめてよ」 「大丈夫ですよ。今、私の姿は貴女にしか見えていないので」言いながら彼女はまた得意げにコロコロと笑った。 「それはそれで問題なの」わたしは大きく息を吐く「わたしが他人には見えない誰かと話してる痛い人みたいに見えるでしょ。地に足をつけて、周りの人にも見えるようにして」 「一つじゃない」彼女は不満げに唇を尖らせた。 「うるさい」
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