わたしが世界を救ったなんでもない日

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♯♯♯  これを飲んでいる人たちは、一つ一つの違いがわかってるんだろうか?  メニュー表に並んだ商品名があまりにも見慣れない単語の上にいくつも並んでいたせいで、わたしの目は上滑りしてしまう。まさか紅茶だけでメニュー表の見開き一ページを埋めてしまうくらい種類があるなんて知らなかった。  机を挟んで前の席に座る天使も、うんうんとメニュー表に顔を埋めながら決められないでいるらしい。人間と同じように悩むなんて可愛げがある、と注文を決めかねている自分を棚に上げながら思った。  わたしたちは大通りに面したテラス席のある、恐らくオシャレでキラキラしているらしいカフェに入った。中にいる客は案の定、ファッションに自信のありそうな女の子ばかりで、可愛らしいケーキをスマートフォンで撮影したりしていた。  居心地が悪くないか、と天使を見ると、彼女もまた可愛らしい服装をしていたのを失念していた。勉強の成果だったか。  地味な服装――元バイト先の制服だが――をしているのはわたしだけ。場違いなのは天使の彼女ではなく、人間のわたし。  こんなおしゃれなカフェに地味なわたしが行き慣れているはずもなく、だから席についてから、天使の彼女と同じようにメニューに悩んでいたのだ。  いくらメニュー表に並んだ意味の分からない単語を睨んでいても、味が分かるようになるはずがない。諦めたわたしは一番上に書かれたオリジナルブレンドティーを注文することにした。何がブレンドされているのか分からないが、最初に書かれているんだから、この店のオススメなんだろう。  わたしが決めてからも、彼女はまだうんうんとメニューとにらめっこを続けていた。そんなに悩むことか、と自分を棚に上げて呆れてしまう。 「とりあえず、わたしは一番上のを頼むから、二つ目のを注文したら? 味なんて実際に飲んでみるまで分からないんだし。もし口に合わなかったら交換してあげる」 「そうですね」  納得したのか、彼女は意気揚々と店員を呼んで注文をした。  実のところ、さっさと決めてほしかっただけだ。店で出しているものなのだから、不味いものが出てくるはずがないだろう。 「それに、違うものを頼んでおけばシェアして二つの味が楽しめるでしょ」  これは友達の受け売り。しかし、彼女にはなにか刺さるものがあったらしく「なるほど。たしかに」と身を乗り出して感心していた。友達とすら一つの食べ物を分け合うなんてほとんどしないのに、天使と分け合うなんて初めて。
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