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店員が恭しく運んできた湯気の立つティーカップを覗き込む。コンビニで売っているペットボトルの見慣れたストレートティーよりも少し赤みがかっているような。匂いも少し花のような香りが混ざっているような。正直なところ、よく分からない。
「これは、どうなんですか?」
天使が尋ねる。
「さあ?」
わたしが曖昧に答えると、それがおかしかったのか天使はクスリと笑った。わたしも釣られて微笑む。
紅茶なんてあまり詳しくないので、違いが分からない。
二人してお互いの反応を窺いながら、恐る恐る紅茶を口にしてみる。
複雑でいてシンプルなような。少し酸味があるような。やっぱり、よく分からない。ただ、砂糖はほしいな。甘くない。
「これは、美味しいんです、よね?」
天使が感想に困ったようにわたしに尋ねる。
「さあ?」
わたしが首を傾げると、天使はまたクスクスと笑い出した。わたしも同じように笑う。紅茶が美味しいかどうかよりも、目の前の彼女が笑ってくれたことがわたしは嬉しい。
お互いのティーカップを交換して飲み比べてみたけど、やっぱり紅茶の機微なんて分からなくて、二人で笑い合うだけだった。
「でもさ」店内の居心地の悪さにも慣れ、紅茶も冷めつつある頃にわたしは口を開いた「神様ってのも失礼よね」
「不敬ですね」天使は不満げに唇を尖らせた。尊敬して疑わない親みたいな存在を貶されたように思ったのだろう。
「ああ、バカにするつもりはないの。でも、天国だか極楽だか高いところから見下ろして、人間を業が深いだとか将来性もないって決めつけてるんでしょ?」
「高いところからは全てが見渡せますから」不敬らしいわたしに対抗したかったのか、何故か天使は必要以上に胸を張った。
「本当? 終末宣言に対してわたしが行動しないのは読めていなかったのに? それに、このメニューが一番美味しいかも知らなかったんでしょ?」わたしはメニュー表をヒラヒラ振りながら言った。
「そうですけど……」なにか言い返したかったのに反論が思いつかなかったのか、天使は歯切れが悪い。
「一つ言えることがあるとすれば」天使の少し俯いて沈んだ表情に、わたしの中の加虐心に少しばかり火が付いた。虐めたくなった「大層な翼なんて広げて見下ろしてるばっかりじゃなくて、たまには地に足つけて人間と同じものを見なさいってことよ」
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