わたしが世界を救ったなんでもない日

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 大見得切っていい終わってから、やってしまった、と後悔した。今にも天使は泣き出しそうな顔をしていた。調子に乗って言い過ぎたか。加虐心の火が急速に冷え切って鎮火していく。 「え、ええっと……」  わたしは何か上手いフォローの台詞はないかと探す。しかし、思いつくのは心の籠もっていないお世辞ばかりだった。笑顔にしてあげたいが、天使を笑わせる台詞なんて知るはずがない。  知らなければいけないのは、わたしも同じか。 「実は」俯いたままで、天使は口を開いた「世界の危機に直面することで、人間に少しでも良い方向に行動してほしかったんです。だから、直接人間に終末を告げる役割を買って出たんです」  立候補制なんだ、とどうでもいいことが気になった。 「誰も好き好んで直接恨み言を言われるどころか、攻撃されかねない役割なんてしません」 「そりゃあ、そうね」  言ってから、天使を攻撃すれば世界を守れると考えた人もいるのか、と少し彼女を不憫に思った。ドラマなんかで見る営業職のサラリーマンみたい。 「残念だったね。わたしは面倒くさがり屋だから」 「そうですね……って、自信を持つところじゃないでしょう」  言いながら、天使はぎこちなく笑った。ぎこちなくではあるが、やっと笑ってくれた。わたしはホッとする。 「でも、意味はあったよ」  意味が察せないらしく、天使は首を傾げた。 「あなたと出会えた。わたしの何にもない無駄な時間が色づいた」  きっと彼女に会わずに帰っていたら、特になんのイベントもないままにスマートフォン片手にテレビを見て一日が終わっていただろう。それどころか、バイトを辞める羽目になった厄介な客を思い出してイライラしていたかもしれない。 「世界が終わるとかはどうでもいいけど、あなたに出会えたのは良いことだよ」  その言葉を聞くと、天使は呆けたようにぼうっとしてこちらを見つめてきた。頬が赤らんだ気がしないでもない。そんなに見られると照れちゃうんだけどな。 「それ、口説いてます?」 「まさか、冗談半分」  わたしが言うと、天使は残念そうに少しだけシュンとした顔をした。 「半分は本気」天使が顔を上げた「あなたが居てくれれば、わたしの毎日も少しは楽しくなると思う」  さっきまで沈んでいたのに、今度は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに頭を掻いている。コロコロと表情の変わる、からかい甲斐のあるかわいい子。
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