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うつりゆく時は過ぎ、季節は冬に差し掛かろうとしていた。
館内の空気もひんやりと冷たくなり、手が冷たく感じるようになっている架暁だ。
赤茶けた長い髪を肩のあたりで絹のリボンでゆるく結い、店主の架暁が大島紬の裾を払いながら螺鈿の猫足テーブルについた。
「今日は茉莉花茶にしましょうか、桜子さん」
「いいわね。香りが好きよ、あたし」
パタパタと足をパタつかせて、桜子と呼ばれた髪の長い京人形が喜んだ。
着物は京友禅で齢二〇〇年になる、せぴあ館 桜小町の隠れ主である。
「お茶菓子はなにかしら?」
「きのう買った大黒屋さんの大福ですよ」
茶器をセットしながら、茉莉花茶の葉に湯を注ぐ。ふわり、と茉莉花のいい香りが立ち上る。
桜子お気に入りの白うさぎの形をした有田焼の皿に大福を乗せた。
「最近お店の方はすっかりお茶屋さん状態ね」
「白蝶酒店さんにも家具はお返ししましたしね。綺麗な状態で戻せてよかったです」
本来は古い日本家具、古道具、アンティークを扱う店だというのに、気に入った客と桜子にはお茶を振舞う架暁が、ここ数日来客もなく桜子とお茶をするだけの日々を送っていた。
リフォーム工事のため預かっていた家具の不具合も調整し、磨き上げて届けると、酒屋の新しい店主となった若い息子と前店主はたいそう喜んだ。
引き取った残りの家具たちの修善と磨く日々を終えると、急に手持無沙汰になった架暁だ。
「大仕事を終えた後ですから、しばらくはゆっくりしますよ」
「毎日架暁とばかりじゃ飽きちゃうじゃない」
「つれないことを言いますね、桜子さん。せっかくですからお友達も呼びましょうか。力を貸してください」
架暁の細い指が桜子の小さな手をつまむ。
「おいでなさい、付喪の神々たち。今はその魂に人の姿を与えましょう」
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