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計画の夜のはじまり。
中学校生活も残り僅かな3月の中旬。
この頃になると受験対策の特別授業もひと段落して、皆どことなく時間を持て余すようになっていた。
そんな退屈なある日、仲良し3人組の剛志(つよし)、悠仁(ゆうじ)、翔太(しょうた)は、卒業式を迎える前に、中学校生活最後の記念として、剛志の家に泊まる計画を実行に移そうとしていた。
計画というのは、剛志の両親が外出で不在の夜、みんな徹夜でハメを外して楽しもうという彼らなりの悪巧みの事である。
―計画の夜―
「こんばんはー!おじゃましまーす!」
着替えやら食べものやら、たくさんの荷物を抱えた悠仁と翔太が剛志の家にやってきた。
「はいよー!上がってー!」
普段は学校が終わってから夕食前までしか居たことのない友達の家に、こんな時間から入り浸る事が出来るのだからみんなのテンションは最高だ。
到着した二人は荷物をどさっと部屋の隅に置くと、すぐさまラフな格好に着替え始めた。剛志は既に毛玉だらけの部屋着を着ているので、2人から受け取った食べものの差し入れと、冷蔵庫から色々な種類の飲み物を着々と準備し始めた。
そして、ほぼ同じタイミングで準備の整った3人はテーブルを囲んで座った。
「今日は剛志くんだけなんだよね?」
翔太が念の為確認をする。
「うん!俺1人!しかもうちの親、明日の午後にならないと帰って来ないからね。」
「いいねー!」
「それじゃ、まずは乾杯だね!」
翔太が開会宣言をすると、3人はそれぞれ好きな飲み物をコップに注いだ。
「じゃ……………乾杯!」
「カンパーイ!」
一応考えてみたが、特に気の利いたことを言えるわけでもなく、妙に間が空いた乾杯を皮切りに、楽しい計画の夜が始まった。
みんなそれぞれ夕食は済ませてきたが、中3男子となれば、目の前に食べ物があると青虫のように
ムシャムシャと食べてしまう。
女の子とは異なり、男子は食べながらおしゃべりをするというスキルが乏しいので、ただひたすら無言で食べ続け、味覚とお腹が落ち着いた頃に、ようやく話し始めるのだ。
「俺さ、入学祝いに新しいiPhone買って貰えることになったんだよー!」
「マジ?!いいなー。」
「家は親に言ってみたけど、『いまの機種で不自由してる訳じゃないんだから』とかいう理由で却下。」
「あー、わかるー。ある意味不自由なんですけどね、みたいな。」
「そうそう。」
「進化のスピード分かります?って思う。」
日頃抱えていた不平不満を話し始めると止まらない。まるで週末のサラリーマンのように、仲良し3人組はボーイズトークに花を咲かせる。
「なんかなぁ……」
「うーん……」
「ね……」
そして、一通り話し終わってこれが実のない会話だと気づくと、途端に無口になる。
せっかく色々な楽しみ方があるのに、なんだかとてもいじらしい。
そんな時間を打破するかのように、剛志がギアチェンジをし始める。
「あ!ちょっと待ってて。」
そう言って足早に階段を降り、遠くの方で何やら準備をし始めた。
そして準備が終わると、トントントンと軽やかなリズムで階段を登って来た。
「これこれ!せっかくだしね!」
そう言って剛志は、両手で抱えた缶チューハイやカクテルを見せた。
「お酒!?」
ゲストの2人も予想外の剛志の行動に驚いた。
だが、今夜はハメを外す夜だから何でもありだ。一瞬にして戸惑いよりも好奇心が勝った。
「じゃ、ここから本物の乾杯!」
そんなかけ声のような言葉に、お泊まりの夜は次の場面へと切り替わった。
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