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本番はこれから。
「カンパーイ!!」
3人は恐る恐るコップに注がれた液体に口を近づける。
初めは優しく舐めるように一口含む。
甘いキャンディーのような味覚のあとで、ほろ苦く舌を締め付けるような感覚に包まれた。
「ん……意外にうまっ!」
正直な感想だった。
2人の反応に喜ぶように剛志が言った。
「うまいでしょ?!家は父親がこっそり俺に飲ませてくれるんだよ。本番はこれから。」
そう言って、剛志はさらにゴクッと飲み進めた。
「すごいな……家でも親の飲んでる酒を舐めたことはあるけど、さすがに飲んだこと無いな。」
「だよね。」
ゲスト2人組は剛志の先進っぷりにただただ関心させられていた。
こういう場合、3人とも条件が揃っていれば「俺も飲むよ」という意地の張り合いが始まるものだが、剛志の独壇場である。
こんな状況が続き、しばらくすると剛志のテンションがさらに上がり、次のギアチェンジとなった。
「アハッ!めっちゃ楽しーー!!じゃあさ、王様ジャンケンしよーー!」
「ま?!王様ジャンケン??」
「やば!剛志くん、酔ってるからー。」
既に全員酒に酔ってきていて、なんでも楽しく感じていた。
初めて体験する感覚を楽しみつつ、自分が酒に酔うという事実を理解する事が出来ないまま身を預けていた。
「王様の命令はガチリアルね!はいジャンケン!最初はグー……はやく!最初はグー、ジャンケンポンッ!」
剛志の強引なハンドリングによる最初の犠牲者が決まった。
「あっ!翔太に決定ーーー!!!俺、王様~♪……んーと、んーとね……わかった!最初の罰ゲーム!まずは翔太が脱ぐ!!」
「はっ?!」
「脱げ!」
「なんで!?やだよ!」
「嫌じゃない!王様の命令は絶対だから。」
「もう酔っぱらいおじさんじゃん!」
「いや、お前もな!とりあえず上着でいいから~」
剛志のしつこい命令に負け、翔太は上着を1枚脱いだ。
「はい、脱いだ!」
「おけ!じゃ、次!!」
こんな時に限って剛志のジャンケン勝率が高く、罰ゲームが進むにつれて、悠二と翔太は2人とも上半身裸になってしまった。一方の剛志は上着1枚脱いだだけで難を逃れている。
そして、また剛志による次の命令が下される時がやって来た。
「はい勝ちー!やっぱ俺って王様が相応しいんよな!……じゃあ次は………これ以上脱がしたら俺訴えられそうだから……。キス!悠仁と翔太キスしろ!」
「はぁ?!バカでしょ?無理。」
「……」
「命令は絶対!……あ、わかった、これ使うのは認める。」
そう言って剛志は、ポッキーを1本差し出してチラつかせた。
「ほらほら!伝説のシーン!!早くしろー。」
「あーー!もうっ!わかった!」
悠仁は、はいはいとあしらうように剛志のチラつかせたポッキーを乱暴に受け取り、それを唇にくわえて翔太の方を見た。
「翔太くん、はい。」
「え……?本当にするの?!」
「いいから早く!この状態辛い……」
「うん…」
はむ……モグモグ………。
少しやけになっている悠仁のペースが早く、先に悠仁の唇が翔太の唇に重なった。
(?!)
「ぅおーい!なんかエロい!ドラマみたい!!はい、次のジャンケン!!」
「やばーーー」
剛志は笑いながら興奮して、次の展開に期待しているようだった。
「ジャンケンポン!!」
「よっしゃーー!!」
また剛志が王様となった。
ゲスト2人は怯える市民のようだ。
「さっきのもう1回!!今度はちゃん見せて。」
「はぁああ??おかしいでしょ!?」
「俺、王様。はいコレ。」
そう言うと、剛志は再びポッキーを取り出し、悠仁の顔面スレスレの位置でチラつかせて見せた。
「はよ~」
「はぁ……。」
悠仁は溜め息を吐きながら顔をガクッと下ろし、しぶしぶ剛志からポッキーを受け取って唇にくわえてから、もう一度翔太の方を見た。
「翔太くん、もっかい。ん。」
「うん……」
はむ………モグモグモグ!
今度は悠仁のペースがさらに早く、あっという間に悠仁の唇が翔太の唇に重なり、翔太の顔が押されて後ろに傾いた。そして残ったポッキーを絡め取ろとした時に、悠二の舌が翔太の唇を舐めるように触れた。
(あ…)
それを見た剛志はゲラゲラ笑い転げて半泣き状態だった。
「はい!終わりっ!ちゃんとみた?」
「見た見た!!やばすぎ!撮れば良かった~」
「さすがにそれは無理!」
「ゲホッ、ちょっとトイレ……」
剛志は笑い疲れて咳込むと、フラフラと階段を降りてトイレに向かった。
ムードメーカーが居なくなった部屋で、悠二と翔太は気まずい沈黙に包まれながらさっきのシーンを思い返していた。
この手のシーンは動画で見た事があるし、キスそのものは珍しい事では無かった。けど、まさか自分達がするとは思ってもみなかった。でも、何故だか分からないけど嫌な感じはしなくて、唇が触れた時から新しい感覚に襲われていた。2人はキスをした事よりも、その感覚を意識をし始めた。
「剛志くん、遅いね…」
「さすがに遅すぎだね。倒れてんじゃないかな?ちょっと見て来る。」
「僕も。」
2人は階段を降りて、トイレがある廊下奥の右側に向かった。
「剛志くん?」
ドアをノックして確かめるが返答はなかった。心配してドアを開けてみるが、剛志の姿はない。
「どこだ?」
2人は折り返してキッチンへ向かった。
リビングを通り過ぎようとした時に剛志がいた。
「いた!」
「剛志くん?!」
「……zzz」
やっと見つけた剛志はリビングのソファで寝落ちしていた。水を飲みにキッチンまで来てから力尽きたのだろう。
「なんだよ寝てるし……一瞬焦ったわ。」
「寝ちゃったね……」
「起こすと面倒だから、朝までこのままにしない?」
「そうだね。」
2人は剛志が無事であることを見届けると2階の部屋に戻った。
「さてと……どうする?もう寝る?」
「うーん………もう少しゲームしない?」
「……2人で??」
「……せっかく楽しいし、いいじゃん!」
「………………ま、いっか。」
「ふふ。」
絶対王政から解放された2人は、お酒の力と安堵から、普段なら絶対に言わないような事を平気で言っていた。
“さっきの続きをしてみたい”という気持ちはさすがに口に出しては言えなかったけれど、2人の本当の罰ゲームは既に始まっていた。
「ジャンケンポン!あ、悠仁くんの負け。」
「また負けか…………じゃ王様命令を。」
「じゃあね、もう1回これを使って。」
「?!!」
そう言って翔太はポッキーを取り出し、挑発するように悠仁の顔の前に提示した。
「からかって無いよね?」
「そんなんじゃないよ!……ね?」
さっきまでとは違い、何だか真剣な空気が漂っていた。それに、抑えようのないスリルも感じている。
悠仁は新しい王様の命令で再びポッキーを口にくわえた。
「王様、はい。」
「ふふ……うむ、よろしい。」
はむ…………モグ…………モグ…………
今度はゆっくり食べ進めて、2人はお互いの口元を見ながら距離を縮めた。ポッキーを噛み砕く振動が鼓動のように感じる。
残り1cmくらいの距離まで来ると、2人の視線が合い、何かが繋がった。
悠仁は左腕で翔太を抱き寄せると、優しく唇を合わせた。
それに応えるように、翔太は両腕で悠仁を包み、少しでも唇が触れるように顔を傾けた。
「んっ……んん………」
さらに悠仁は、翔太の唇の隙間を舌で広げながら、ゆっくりと滑るように翔太の中に進んだ。チョコレートの甘さが残っていた。
翔太の舌は温かくて柔らかく、まるで別の生き物のように悠仁の舌に絡み合ってきた。
(もっと……)
これ以上進みたくても進められないと感じると、今度は翔太を飲み込むように悠仁は舌を深く動かした。
「んん……ぷはっ……」
「ん……」
翔太は悠仁の肩と背中をより深く抱いた。
「はむっ!」
「んっ!」
呼吸が苦しくなって少しだけ離れると、再びすぐに2人は重なり合った。
押し寄せる波のような時間がしばらく続き、顔が温かくなってきた頃、2人は見つめ合った。
はぁはぁ……ゴクッ…………。
「僕たち、こんな事していいのかな…。」
「……いいんじゃない?だってこれ止まらないよ……。」
「次どうしよっか……。」
「ジャンケンだね……」
2人の罰ゲームはまだまだ終わる気配が無かった。
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