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彼女
夏も過ぎ、寒さも感じ始める紅葉の季節を迎えた秋のこと。
もちろん今はサーファー以外、海で泳ぐ人なんていない。
その夕方の海は赤く染まり始めていた。
私はその日一人浜辺に来て、告白をして振られたばかりの相手に想いを馳せていた。
ずっと好きだった。
半年以上経ってからようやく決心をして、自分なりに一生懸命頑張ってその人に告白をした。
でもその人には好きな人がいて…
それはきっとありがちなこと。
しかし大学生になったいまでも、こんな時にどうやって自分の気持ちに向き合えばいいのか分からない。
ただ悲しくて、告白をして振られた次の日には気がつけば電車に乗りここまで来ていた。
「…先輩…」
ここでどんなに名前を呼んだって、私の想いが届くはずもないのに…
すると、私の後ろから声がする。
「泣いていいよ…?」
振り返って見れば、半袖の白いワイシャツにスラックス、肌は透けるほど白く、手足が長く細い体の、私くらいの年頃の男の子。
穏やかな表情で、高い背で立ったままこちらを見下ろしていた。
「涙は海に溶ける。きっと君のその涙も溶けていくから」
変な人。
でもこれは、私を励まそうとしてくれたのかもしれない。
「っ…ありがとう…」
私は急いで溢れていた涙を拭き、いたたまれなくなったその場を立ち去ろうとする。
すると、
「…僕みたいなやつでも、君の役に立ったなら良かった。人間はやっぱり、人の役に立てたほうが良いからね…」
穏やかに、それでも少し寂しげに彼はそう言った。
もしかしたら、私と同じく何か悩みがあってここに来たのかもしれない。
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