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目が覚めると私は自宅のベッドの上に居た。締め切ったピンクのカーテン越しに強い日差しが薄く輝いている。
……、……完全に遅刻だこれ。
そう理解した瞬間、枕元のスマートフォンがマナーで唸った。ディスプレイには「会社」という味気ない漢字が表示されている。
「もしもし、雪島です」
「……お前って奴は」
課長の罵詈雑言らしき声が並ぶが、昨日と違って何も感じなかった。
代わりに、私の頭の中には朧気に覚えているあの猫の表情と、声と、ビートルズの『Help!』のメロディが流れていた。
誰か助けて!
誰でもいいというわけでもないんだけど、助けてくれよ。
僕には助けが必要なんだよ。
「……辞めます。辞表は、明日提出しますので。今日はお休みをください」
課長の困惑と制止する声が遠くに聞こえた気がしたが、私は通話を切った。
大きく伸びをしてから、シャワーを浴びた。私服に着替えてから私はまだ肌寒い外へと出た。
彼が教養として教えてくれたビートルズのCDを買いに行くために。
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