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愛される覚悟
柊一はベッドに仰向けになり、自分を押し倒した男に見下ろされていた。心構えは出来ていたが、やはり男性にのしかかられるのはまだ慣れない。
鼻先を擦り付けるように京介が柊一にキスすると、香水に混じって彼の汗の匂いがした。久々に間近で見る美しい顔に心臓が高鳴る。
柊一は京介の要望に応えられるよう、ここ最近はずっと体を慣らす練習をしていた。「男と寝ることもできない」なんてもう言わせないためだ。
毎晩のようにアナルプラグを挿入していると、ひとまず中に入れるということには慣れてきた。残念ながら気持ち良いとは思えないが、本番に対する心の準備はできたつもりだ。この間彼の前でみっともなく泣いたのは、初めて男性に触られてびっくりしただけ。もうこれだけ特訓したんだから全然問題ない――はずだった。
「んっ……」
彼の口付けが深くなり、鼻で息をしようと思うとどうしても甘ったるい声が漏れる。京介はそれを優しく包み込むように唇を食み、舌を差し入れてきた。ゆっくりと口中をかき回される感触に夢中になっていると段々頭がぼうっとしてくる。彼の手がTシャツの裾から潜り込んで柊一の胸に触れた。
「あっ……!」
小さく叫びが漏れ、手で口を抑えると彼がそれをやんわりと退ける。
「恥ずかしがらなくていいよ。最初は誰だって怖いものだ。柊一くんは気持ちよくなることだけ考えて。俺は君が感じているのを見ると嬉しいから」
京介の優しい眼差しに諭され、黙って頷いた。すると彼がまた柊一に口付けた。
(彼のキスが好きだ。低くて優しい声も、今俺の顔を撫でている大きな手も……)
女性とは違う、包み込むような彼からの愛撫に柊一は身を委ねることにした。
服を脱がされ、あらわになった胸の先端を彼の舌に捕えられる。一瞬前回のことを思い出して体を強張らせたが、彼に「大丈夫?」と声を掛けられて力を抜いた。大丈夫だと頷き返すと、彼はまた素肌に舌を這わせた。
後ろを慣らす練習はしたものの、もちろんそれ以外の刺激に慣れてはいない。胸を舐められるとピリッとした刺激に息が上がってくる。
不安なような、むず痒いような、それでいて気持ちいいような……。
「あ……っ、ん……」
「可愛いよ、柊一。気持ちいい?」
彼が指で胸の先端を押しつぶしたり摘んだりしながら尋ねてくる。
「は、はい……」
柊一は感じていることを隠さず素直に告げた。
「良かった。あのときは君に拒絶されたと思って正直ショックだったんだ」
「え――?」
自分のことで頭がいっぱいだったけど、自分が逃げたせいで彼のことを傷つけていたんだ。
「でも、こんな風に準備までしてくれて嬉しい」
京介の手が尻のプラグに伸び、そこを軽くつつかれた。その振動で中が擦れて体がびくっと跳ねる。
「あ、あのときは俺、京介さんに触られて、気持ちよすぎてわけがわからなくなって……」
彼が柊一の顔を覗き込む。
「そうだったの?」
「はい。それで、自分が自分じゃないみたいですごく怖くて……。今まで女性とのセックスであまり気持ちよくなれたことがなかったんです。だから、ちょっと触られただけであんなになって、びっくりして――」
「……そういうことだったのか」
「だけど、俺覚悟決めたんです。だから京介さんのしたいことなら――俺、何をされてもいいです」
誤解がないよう、必死で自分の思いを伝えたくて京介の目を見た。すると彼が一瞬目を丸くし、その後困ったように眉を下げた。頬を緩ませて彼が言う。
「君は本当に……逃げたかと思えば急にそんなことを口にするんだから驚くよ。そう言われた男がどう思うか、わかりそうなものだけどね?」
そして彼がまたプラグに手を伸ばして尋ねた。
「こっちでもう気持ちよくなれるの?」
柊一は首を横に振る。
「……痛くはないんですけど、気持ちいいとは思えなくて」
京介は「じゃあ、少し試させてね」と言って柊一の下着を完全に脱がせた。彼に足を大きく開かされ、羞恥で一気に全身が熱くなった。
「あ、け、京介さん……っ!?」
「ごめん、どうしてもよく見てみたくて。君みたいに綺麗な男がこんないやらしいものを入れて男を誘うなんて……なかなか見られるものじゃないからね」
「や……そ、そういうこと言わないでください……」
改めて言われるとものすごく恥ずかしいことをしてしまった気がしてくる。やり方を間違えたかもしれない。彼は慌てる柊一を見てふふ、と笑った。
「恥ずかしがる姿も格別だね。柊一くんは顔立ちも整ってるけど身体つきも文句なしに見事だ。失礼するよ」
「え?」
柊一が褒め言葉にどぎまぎしている間に、彼がいきなり足の付根に顔を寄せてきた。止める暇もなく、形を変えつつあった陰茎を口に含まれる。
「ちょ、ちょっと……! やめてください。そんなところ!」
強すぎる刺激と驚きで目の前がチカチカする。実は女性にも口でされるのはなんとなく嫌で断っていたから、初めてだったのだ。
「あ……だめ、ああっ!」
手に力を込めて彼の頭を押し戻そうとしても、口を離してくれなかった。ついさっき自分で何をされてもいいと言ったことをちょっと後悔した。彼の舌が雄茎を擦り上げるように舐め、唇で締め付けるように吸われると気持ちよすぎて力が抜ける。
「……やだ、離して……あっ……あっ」
やめてほしいのに、唇からは吐息とともに喘ぎ声がこぼれる。背筋をぞくぞくと痺れるような快感が這い登り、柊一は我を忘れそうになった。逃れようとしても彼に太腿をがっしりと掴まれて動けず、甘い痺れに悶えた。
「腰が揺れてる、感じてくれてるんだ」
「も、もうやめ――っ」
「一度出そうか」
柊一の反応を見て彼は目を細めながら再度それを口にした。そして、先ほどまでの緩やかな調子と打って変わって、急に頭を素早く前後させ始めた。じゅぷ、と唾液が泡立つ淫靡な音に耳を犯され、目も眩みそうな強い快感に柊一は嬌声を上げた。
「あっあっ……強すぎ……そんなの無理、無理だからもう離して、お願い。京介さ、ぁ……」
彼の動きが大きくなり、自分の腰が揺らめいたことによってアナルプラグが直腸内の変な部分に当たってしまう。その奇妙な刺激に、思わず彼の髪の毛を両手で鷲掴みした。
「や、お尻も変……、だから、やめて……!」
しかし彼はこちらの目をチラッと見上げた後、わざとプラグの先端をぐりぐりと指で押してきた。
「ひっ! あっ、あっ、待ってそれ、変、ンンッ」
襲い来る快感の波に押し流され、足がつりそうなくらい指先に力が入った。そしてそのまま腰を震わせ、彼の口の中で絶頂を迎えた。欲望は止めようもなく、どくどくと脈打つように放たれる。
彼の太く逞しい喉元がゴクリと鳴る。柊一は羞恥と共に気が遠くなりそうなくらいの快感を覚えながら、全身脱力してベッドに身体を預けた。
「はぁっ……はぁ……ご、ごめんなさい。我慢、できなくて……」
まさか飲むなんて――。
「君の味を知ってみたかったんだ。ご馳走様」
あまりの言われように柊一は顔を覆った。
「今夜は俺の好きにしていいんだよね? さあ、今度はこっちだ」
「え、待って――」
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