現地体験?

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現地体験?

 彼に連れて来られたのは、いわゆるゲイバーだった。もちろん初めて訪問する。 (たしかにこれは現地体験、だな)  酒の勢いを借り、それでも少し緊張しつつドアをくぐる。しかし身構えた割に中は普通のバーと変わらない様相だった。  京介に続いてカウンター席に腰掛ける。四十代くらいの整った顔立ちをしたバーテンが会釈し、オーダーを促した。 「俺はジンフィズを。柊一くんは?」 「じゃあモスコミュールを」  ざっと周りを見渡しても皆お酒を飲みながら静かに話している。ゲイバーといえばもっと賑やかで、いかがわしい雰囲気だと勝手に思い込んでいた。 「どう? 割と普通でしょ」 「はい。なんか、思ってたのと違いました」 「現地に飛び込んでみないとわからない、だろ?」  柊一は頷いた。酒を飲んでいる客は皆男性だったが、至って普通の人達だ。あえて普通のバーとの違いを探そうとするならば、ルックスに気を遣っていてお洒落な人が多いところだろうか。 「どの方も……特にバーテンの方とかかっこいいですよね。雰囲気も落ち着いてて」 「かっこいい、か。彼みたいのが好み? ちょっと妬けるな」 「え、いや、そういう意味じゃ――」 「冗談だよ。それに彼はネコだから」 「猫?」  猫が好きって事だろうか。柊一はどちらかというと犬が好きかな……と先週の甘ったれた京介の姿を思い出す。 「まあ、そういうのはおいおい説明するよ」  その後しばらく話している間、何度か彼のスマホに着信が入っていた。彼はその度に無視していたのだが、急用なのか何度も鳴るので柊一の方が気になってしまって声をかけた。 「あの、電話さっきから……」 「いいんだよ。休日なんだし君といるんだから」 「でも急ぎの要件なら仕事優先してください。上司がつかまらないと困るのは俺もわかりますから」 「そう? 悪いね。じゃあすぐ戻るから」  彼は申し訳なさそうに外へ出て行った。この雰囲気なら一人でも気後れせずに待っていられそうだ。柊一はマスターに酒を追加で頼んだ。  すると一人の時間を楽しむつもりが、突然後ろ側から来た人物に話しかけられた。 「こんばんは」 「あ、こ、こんばんは」  誰かと話すことになると思わず少々びっくりして声が上ずった。話しかけてきたのは俳優かアイドルなのかというような整った顔の若い男だ。ベージュカラーのウェーブがかった髪が綺麗にセットされている。 「ねえねえ、いきなり話し掛けてごめんね。それってぜんぶ天然モノ? どこかいじってるの?」 「はい……?」
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