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密着しているので、急激に鼓動が速くなっていくのが彼にはバレているだろう。
「何のことかなんて無粋なことは聞かないでくれよ」
「――はい……」
顔が火照っているのは酔っているからなのか、彼に抱きしめられているからなのか判断がつかない。幸い緊張しているのは自分だけではないようで、彼の心音も穏やかではなかった。二人の鼓動に耳を澄ませ、彼の体温を肌で感じるのは心地よかった。
(この先に進む……この先に……)
柊一の返事を待たずに彼が重ねて尋ねてくる。
「キスしても?」
最初に京介の家に訪問したとき以来、彼が必要以上に柊一に触れることはなかった。柊一はあの日恥ずかしさと共にもっとその先を――と感じたのを思い出す。そして、彼の胸に額を付けたまま頷いた。
すると彼の指が顎に掛かり、上向いた柊一の唇に彼の唇が重なる。前回はワインの香りがしたが、今日は彼の付けているムスク系のコロンが甘く香った。
触れた部分がじんと痺れる。今回は、前みたいな優しいキスでは済まなかった。彼の大きな口が柊一の唇を食べようとでもいうように包み込んでくる。その感触にぼうっとなっていると今度は舌で表面をなぞられる。強めに押し付けられる唇の感覚は女性とのキスとやはり違って、柊一はそれに酔いそうだった。
息継ぎをしながら、彼の洋服を必死に握りしめる。柊一の不安を見透かしたように、彼が腰を抱く腕に力を込めた。柊一は腰砕けになったように思わず彼に身を預けた。
お互いの荒い息遣いが静かな室内に響き、舌が絡まると共に唾液が混じり合う。甘い匂いがするのに、唾液はビールの味が残っていて苦い。与えられる快感に頭が混乱して何も考えられなくなっていく――。
(気持ちいい……もっと……)
そう思った時、彼が唇を離して柊一の目を覗き込んだ。
「嫌じゃない?」
柊一は息も絶え絶えに答えた。
「……嫌じゃ、ないです」
「俺以外の男でも?」
「え?」
「バーで仲良く話していた男ともキスしたいと思う?」
「……いいえ、そんなこと、俺は……」
「じゃあ俺に任せてくれないか」
京介が柊一を見る目は、最初の晩に見た甘えるような色を浮かべていた。彼の眉がぐっと下がる。
「他の男に渡したくない」
そう言われてぞくっとした。柊一は今まで彼と一緒に過ごしながら、共通の価値観だとか趣味だとか、彼と一緒にいたくなるもっともらしい理由を探していた。
だけど単に自分はあの日のキスが気持ち良くて、あの続きがどんなものか知りたかっただけなのかもしれない。
精神的な繋がりを探しているふりをしながら、本当はもっとフィジカルな繋がりを求めていたのだ。
「俺も……他の人とこんなことしたいとは思いません。だから……」
彼を見上げて言う。
「キスの続き――教えてください」
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