家に誘われる

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家に誘われる

 夜の首都高は様々な色の光に溢れている。背後に飛んでいく光の海を眺めているとなぜか切ないような気持ちにさせられた。普段あまり車に乗らない柊一は珍しくてつい見入ってしまう。 「柊一くん運転は?」 「ほとんどペーパーで……」 「そうか」  街灯の光が運転席の京介の顔を照らす。鼻筋の通った男らしい横顔が車の速度に合わせて一定間隔で明滅していた。 「京介さんは車好きそうですね」 「それなりにね。でも一人で乗ってて楽しいと思えたのは二十代までかなぁ。最近は誰か一緒じゃないとなんだか味気なくてね」  しばらく無言で流していたが、遠慮がちに京介が切り出した。 「このまま帰る? それとも……うちに寄って飲み直す?」  柊一は咄嗟に返しかねた。 (変な意味じゃないと思うけど、彼がゲイだと知ってて家に行くってどういう意味になる――?) 「ああ、心配しないで。おかしなことは考えてないよ。ただせっかくだからもう少し話したいなと思って。どう?」  警戒してるのを見透かされたようでちょっと気まずい。 「はい……じゃあ、お邪魔します」 「よかった。妹に誓って変なことはしない。ワインもあるから飲んでいって」  夏帆からはそれなりに遊んでる人だと聞いていたけど、思っていたより紳士的だし控えめな気がする。単に柊一のことが好みじゃないのかもしれないが。    予想はしていたものの、彼の住居に踏み入れるなり柊一は自分の住んでいるマンションとの差を感じた。コンシェルジュのいるエントランス。エレベーターはセキュリティカードが無いと動かず、指定階以外には停まれない。彼の部屋も、これでもかというほど広かった。 (一人暮らしなんだよな……?)  さっき首都高から見て綺麗だと思っていたビル群を眼下に見下ろして柊一は嘆息する。 「はぁ……」 「連れ回してごめんね、疲れた?」 「あ、いいえ! 違います。なんか雲上人の暮らしだなって……」  その言葉を聞いて京介は笑った。 「俺なんて二流、いや三流のエセ金持ちだよ。悪趣味だろ? バカほど高い所に住みたがる」 「そんなこと……すごく綺麗です。こんな景色毎日見られるなんて」 「高いところが好きなんだ、昔から」  京介は窓の外を見ていた目をこちらに向け、部屋の明かりを付けた。 「ワインを持ってくる。座っててくれ」  そう勧められたけれど、夜景が気になって結局ずっと窓辺に立っていた。  京介はスーツからラフな服装に着替えてワインを片手に戻ってきた。髪の毛も自然に乱されていると先程より若く見える。スーツ姿できちんとしていた時とのギャップに不覚にもドキっとしてしまい、柊一は戸惑った。動揺を隠そうとしてワインを勢いよく飲む。 「どう?」 「普段ワインはあまり飲まないんですけど、これすごく飲みやすくて美味しいです」  その後は他愛のない話で盛り上がり、お酒も進んで気付けばボトルを二本あけていた。ハッとして時計を見るともう終電間際だ。 「あ、俺そろそろ帰りますね」 「なんだよ、帰っちゃうのか……? 俺を置いて?」 (……え?)  ソファで隣に座っていた京介が身体をこちらに向け、柊一の目をじっと見つめてきた。 「帰んないでよ柊一……」 (なんか甘ったるい声だな。あ、もしかして京介さん結構酔ってる……?)  大の男、しかも端正な顔立ちの美形が急に甘えてきて柊一は妙にくすぐったく感じた。 「あ、あの。でも帰んないと……終電が……」 「明日、休みだよね?」 「そうですけど……」 「じゃあもう少しいてよ。お願いだから――……。寂しいんだ」  京介はそう言って柊一の手の上に彼の大きな手を重ねた。  迫力あるイケメンにこうも素直に懇願されると、なんとかしてあげたくなってしまう。柊一にも妹がいて元々長男気質なのだ。しかし、それにしてもシラフの時との差に驚く。 「ねえ柊一……試してみない?」  柊一の指に彼が長い指を絡ませた。 「試すって、何をです?」 「君にキスしてみても良いかな」 「え?」  高層階の窓から見える夜景をバックに京介が言う。 「試してみるんだ――男が嫌じゃないか」
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