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柊一は夏帆にあの晩のことを少し詳しく話した。そして、こちらから誘う気はないと答えたのだが彼女は首を振る。
「あー、だめだめ。柊一くんは誘うとか誘わないとか、考えなくていいから」
何を言ってるかわからなくて答えに窮していると彼女は言う。
「相手は女の子じゃないんだよ、柊一くん。連絡したら即誘わないといけないって話じゃない。ただ、あなたともう少し話をする気はありますよって態度を見せるだけでいいの」
「はあ……?」
夏帆の言うことにはこうだ。男が女に連絡する時、それは「遊ぼう」という要件ありきの誘いの連絡。だけど女が男に連絡する時はそうじゃない。ただ、今暇だから相手が何をしてるか話したいだけのこともある――と。
たしかに、今まで付き合ってきた彼女からも度々何が言いたいのかわからなくて返答に困るメッセージを貰うことがあった。
「柊一くん、今まで何人と付き合ってきたの?」
「えー……いちいち数えてないからわからな――」
「数えきれないほど彼女がいたのに、こんなこともわかってないなんて。やっぱり女の子と付き合うの向いてないと思う」
彼女は相変わらず柊一の心をえぐる言葉掛けが上手だ。仮にも、好みのタイプで一度アプローチした相手なのに……。
「まあいいわ。柊一くん今日何か良いことあった?」
「いや、むしろ出向先で怒られて落ち込んでるっていうか」
「よしじゃあそれだ。仕事で落ち込むことがあって、外食してます。ってメッセージ送信して」
「え? 何でそんなこと――」
意味がわからない。あんな事があって気まずいのに、いきなりそんな日常会話なんて出来ないだろ、と柊一は思った。
しかし夏帆はそれで良いから、としつこく柊一をせっついた。メッセージを送信するまで家に帰さないとまで言われて渋々その意味不明なメッセージを送った。
すると、食事が終わらないうちにすぐ返信が来た。夏帆の催促に従って声に出して読み上げる。
「えーと、『お疲れ様。俺で良ければ話を聞くから、週末会えないかな?』って……」
(え、誘われたってこと……? なんで?)
柊一が呆然とそのメッセージを眺めていると、向かいの席に座った夏帆がニヤニヤしながらこちらを見て言う。
「ね? 私の言った通りでしょ」
「だって、どうして――」
「お兄ちゃんも柊一くんから連絡来るの待ってたってことよ」
夏帆の言うことはよくわからなかったが、週末にまた京介と会うことが決まったのだった。
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