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これ以上はないほどに極めて短い藤井の返事にも、松島は満足したようだった。
はにかんでいた様な淡い笑いは、輝く様なくっきりとしたものへと変わった。
『スマイル』が、再び舞い戻ってきた。
藤井を見つめる松島の表情は、温められて色をより濃くした蜂蜜の様だ。
甘くて――、ただただ甘くて、今にも蕩け出してしまいそうだった。
その笑顔のままで、松島が断言する。
「だから、藤井が作る料理は美味しいんだ」
「そう、かな・・・・・・」
応じる藤井は、何時になく歯切れが悪い。
松島の細められた目の光の強さに濃さに、まるで捕らえられて閉じ込められそうだと危ぶむ。
何時もの藤井だったら、「バカバカしい、自分勝手な妄想だ」と一蹴して終わりだ。
――それっきりだ。
今はそう出来ない理由が、藤井自身にも分からない。
いや、分かりたくなかった。
あえてはっきりとは知りたくなかった・・・・・・
松島は体も言葉も一歩も退かずに、藤井へと言い募ってくる。
「とても美味しいよ。俺は大好きだ」
「そんな――」
「大した料理ではない」と、藤井はすかさず否定をしようとした。
建前としての謙遜などではなく、さすがに本気だった。
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