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もちろん、藤井はその日の内に全部を食べ切るつもりではなかった。
揚げ物なんかは翌日にだし汁と卵とでとじて、丼仕立てにしようかと思っていた。
藤井がそんなことを考えているなど、たまたま出くわしただけだろう松島には当然分かるはずがない。
その『当然』が、藤井には分からなかった。
「アレ?もしかして――、製造管理課の藤井さん?」
藤井は、松島が同じ会社に勤めている人間だと思いも寄らなかった。
これっぽっちも考えてみなかった。
やたらとこちらをジロジロと見てくるデカい野郎がいるなぁと、半ば不愉快に、――もう半ばは薄気味悪く思っていただけだった。
割引のお惣菜なら取り合うまでもない。
それこそ『売るくらい』に置かれてあるというのに。
そんな、自分は全く見知らぬ『野郎』に半額セールの惣菜を買いまくっている時に声をかけられて、藤井は驚いた。
驚いた後、大いに慌てた。
慌てふためいた。
パニックに陥ってその場を後にした藤井に、『野郎』にどう応えたかの記憶はほとんどない。
会計の際にポイントカードを出そうとして初めて、落としたことに気が付いた。
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