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製造ラインへと立ち入る日じゃなくてよかった。
そう胸をなで下ろしつつ、藤井は自分のデスクで製造計画が映し出された端末を睨んでいた。
そこへ、
「藤井、営業二課の人間がおまえに用があるって」
と、同僚の川口が呼びにやって来た。
舌打ちこそしなかったが、また無理難題を吹っ掛けられるのだろうと内心苦々しく思った。
全く――、今日はそれどこじゃないというのに。
もちろん、主任の自分にどうこう出来る権限など皆無に等しいと、藤井にも十分に分かっているのだが。
エレベーターにほど近い共有スペースに、営業二課の人間が藤井を待っていた。
昨夜、『スマイル』で藤井へと声をかけてきた『野郎』その人、張本人だった。
格好は昨夜の私服らしいラフなものではなく、かっちりとしたスーツ姿だったが見間違えることはない。
やはり、藤井が一目見ただけでも「背が高い」と思う程のデカブツだった。
「昨日はどうも」
ペコリと頭を下げてみせても、背が高いのはそう変わらない。
体の大きさの割りには、顔は童顔な方で人懐っこそうだった。
「な、な、な、何で・・・・・・」
確かに、同じ会社に勤めている風だったが、普通、わざわざ仕事中に訪ねてくるか⁉
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