『時間』も調味料の内

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『時間』も調味料の内

 藤井(ふじい)智将(ともゆき)は自室のキッチンの二口(ふたくち)あるガスコンロの奥の方で、持っている一番大きな鍋に湯を沸かしている。  立ち上ってくる湯気で眼鏡のレンズが曇り、エプロンの裾で拭いた。 そのままポケットへとしまってしまう。  鶏手羽元に湯通しをするための湯だ。  このひと手間で鶏の余分な脂が流れ落ちる。 今日は水炊き用だったが、調味料もグンと染み込みやすくなる。  その間、リンゴの皮むきに取りかかった。 煮リンゴには酸味が強い紅玉がだが、それ以外の品種でも美味しく出来る。  今回、藤井が選んだのはサンふじだ。  『選んだ』と言うといかにもリンゴにうるさそうだが、何のことはない。 ほんの少しばかり傷がついたり色が悪かったりする、いわゆる規格外品の五個入り袋を見かけたのでそれを買い求めた。 どうせ煮てしまうのだから、同じこと。 値段も安いので、『願ったり叶ったり』だと思った。  最初にリンゴを切り分けてしまわずに丸のままで、なるべく皮をつなげてむいていく。 むいたリンゴは六等分にし芯と種とを取り除き、予めハチミツとレモン汁とを入れていたホウロウ製の鍋に入れる。
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