319人が本棚に入れています
本棚に追加
『時間』も調味料の内
藤井智将は自室のキッチンの二口あるガスコンロの奥の方で、持っている一番大きな鍋に湯を沸かしている。
立ち上ってくる湯気で眼鏡のレンズが曇り、エプロンの裾で拭いた。
そのままポケットへとしまってしまう。
鶏手羽元に湯通しをするための湯だ。
このひと手間で鶏の余分な脂が流れ落ちる。
今日は水炊き用だったが、調味料もグンと染み込みやすくなる。
その間、リンゴの皮むきに取りかかった。
煮リンゴには酸味が強い紅玉が向きだが、それ以外の品種でも美味しく出来る。
今回、藤井が選んだのはサンふじだ。
『選んだ』と言うといかにもリンゴにうるさそうだが、何のことはない。
ほんの少しばかり傷がついたり色が悪かったりする、いわゆる規格外品の五個入り袋を見かけたのでそれを買い求めた。
どうせ煮てしまうのだから、同じこと。
値段も安いので、『願ったり叶ったり』だと思った。
最初にリンゴを切り分けてしまわずに丸のままで、なるべく皮をつなげてむいていく。
むいたリンゴは六等分にし芯と種とを取り除き、予めハチミツとレモン汁とを入れていたホウロウ製の鍋に入れる。
最初のコメントを投稿しよう!