2 聖女って何だったっけ……?

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「ま、まぁ追放の理由はさておいてだ。嬢ちゃんみたいな若くて可愛い子が魔鏡の村に来てくれたら皆喜ぶだろうぜ!」  ヨダレで職場も国も追放された。  ――という現実を、私なんかよりもよほど受け止めきれなかったオジサンがようやく帰ってきた。  だから私は最初にハッキリと『ヨダレを飲ませて追放されました』って言ったのに。 「本当ですか!? ならヨダレ聖水買ってくれますか!?」 「いや、それだけは勘弁してくれ。すまん」 「どうしてですか!! 美少女のヨダレなんですよ!? お安くしますから!!」 「……なぁ、おい!! お前たちも金髪美少女が来たら嬉しいよなぁ!?」  あからさまに話題を変えたな、この酔っ払いのオジサンめ……。  既に私から心の距離を置き始めていた他の同乗者さんたち。  そんな彼らを巻き込もうと、オジサンは容赦なく絡んでいった。  そして予想通り、他の人たちはかなり迷惑そうな表情を浮かべている。 「それで俺たちが頷くワケねぇだろ。言い方を考えろよ……」 「まったく、五月蠅(うるさ)いですね。僕たちは遊びに行くんじゃないんですよ……」 「……」  当然、話を振られた剣士さんと魔法使いさんはいずれも微妙な反応を返す。  眉を(ひそ)めたり声を荒げたりと、苛立ちを隠そうともしない。  銀鎧の人なんて、リアクションすら示さなかった。  でも良かった、なんだかこの人たちが凄く常識人に見えてくる……!! 「んだよ、ノリが悪いな……まぁ、確かに村には変な奴も居るけどな。それでも共に命懸けでモンスターをぶっ飛ばす同志なんだ。嬢ちゃんも仲良くやってくれると助かるぜ」 「……はぁ、分かりました。いや、それなら変な絡みをするのはやめた方が良いと思いますけど……」  少なくとも、この中では貴方がぶっちぎりで変な人だ。  ……ちょっと待って?  もしかして一緒に居る私まで変なヤツだと思われていないわよね?  うーん、それはちょっとマズい。  ただでさえ私みたいな非戦闘員が村でのほほんとしていたら、他の人たちから目障りに思われるかもしれないのに。  魔境でも居場所が無い?  否、それだけは避けなくては。  ……よし。  ここはひとつ、イメージアップで挽回を図りましょう。 「あの、もっと村のこととか、前線で戦っている人達のことを教えてくれませんか。私、できることはちゃんとやりたいんです!!」  自分の居場所を他人の領域に作るうえで注意すること。  それは“他人のスペースで勝手に居座らない”ということだ。  何もせず、ただ自分のスペースを侵犯してくる人間というのは嫌われやすい傾向にある。  誰かさんみたいに土足でズカズカとやってきて好感を持たれることなど、レア中のレア。  ましてや酔っ払ってシラフの人間に絡むなぞ、まったくの論外である。  いや、この際難しい事はいい。  仲良くなるためにはまず相手を知ること。  そして仲良くなりたいということを行動で示すことだ。  大丈夫、何も悪いことをしようっていうわけじゃないのだから。  男やモンスターが怖いからって、萎縮なんてしていられないわ。  私の言葉が意外だったのか、オジサンの目がパチクリとする。  まぁそうでしょうね。普通の聖女なら受け身ばっかりで、お淑やかなのがウリだから。  でもどうせ私は意地汚いヨダレ聖女なのだ。生憎と普通じゃない。  私の不敵な笑みに釣られたのか、それとも真意を()み取ってくれたのか。  すぐにオジサンもニイっと口角を上げた。 「ガッハッハッハ!! いいぜ! 嬢ちゃんも俺たちの仲間になるんだからな! 仲良くなるためには大事なことだ。なぁ、お前らもいい加減こっちに来いよ!!」  だからそういうところだってば!!  他の人を無理やり巻き込むのは悪印象だから止めて……!! 「さっきからお前のそのテンションは何なんだよ……」 「――はぁ。まったくこの人は……仕方がないですね」  私がオジサンの酒臭い口を塞ごうとした瞬間。  やれやれと言った表情を浮かべながら、剣士さんと魔法使いさんがこちらの席へとやって来た。  おぉ? 良く分からないけど、私も嫌われてはなかったのかな? 「……クロードだ」 「「「「え?」」」」  ……ビックリした。  さっきから一言も発していなかった銀鎧の人が、いつの間にか私の隣に座っていた。  まるで魔法のように。 「名前だ。自己紹介するんだろ?」 「……まさか一番最初がお前とはな」  クロードと名乗った銀鎧の人は「仲間になるなら挨拶は当然だろう」と事も無げに言い放った。  オジサンも目を真ん丸くして驚いている。  ……あれ? そういえば四人とも、最初は無関係な人たちじゃなかったの?  今はとても仲が良さそうに話しているような……。 「あの、もしかしてみなさん。最初からお知り合いだったんですか?」  その言葉に、私以外の全員がキョトンとする。  と思いきや、一斉に四人全員が笑い出した。 「プッ、クハハハッ!!」 「そ、そりゃそうだよなぁ……」 「教会の聖女相手では、伝説の英雄も形無しですね」 「ふふっ……」  ちょっと、私だけ置いていかないでよ?  何か私が変なことを言ったってことなの? 「クッ、クク……すまねぇ。自分も顔の売れた有名人だと思って、随分と天狗になっちまってたぜ」 「え? それって……?」  有名人?  この、酔っ払いが……? 「俺たち四人は魔境で最強の傭兵集団。伝説の竜騎士(ドラゴンスレイヤー)と言えば、このブルーノート様の事よ」  どうやらこの酔っ払いは、虚言癖のある酔っ払いだったらしい。
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