3 起死回生の種

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「あれ? ここは……」  意識を取り戻した私は目をパチクリとさせ、視界にある天井を見つめる。  穴の開いた屋根からは、綺麗な星空が覗いていた。  部屋は暗いけれど、ここは確かに見覚えがある。  間違いない、ここは私がさっき掃除した教会だ。 「私は……あれは夢だったのかしら……?」  むくり、と起き上がると、ボーっとした頭で記憶を(さぐ)る。  なんだか変なモノを見たような気がするけど……うん、きっとあれは夢だったのだ。長旅と掃除の疲れで寝てしまっていたに違いない。  グゥ、とお腹が鳴った。  そういえばお昼から何も食べていなかったっけ。  あーあ、どうせなら食べ物の夢を見たかったよ……。  シュン、としながら、のそのそとベッドから起き上がる。何か食べ物が残ってたかな……と床に足を着けた瞬間。 『起きたか』 「ひゃあ!?」  ベッドサイドにあった椅子に、あの夢で見たお化け人参――マンドラゴラのキャロラインが座っていた。  まるでそこに居るのが当然、とでも言うように、足(?)を組んでこちらを覗いている。 『おいおい、そんな驚くなって。また気絶しちまうぜ? まぁ、ほら。これでも飲んで落ち着けや』 「え? あ、ありがとう……」  唐突に差し出されたのは、コップの中に入った液体だった。  なんだろう、水でも持って来てくれたのかな。  若干怪しみつつも、いただきますと言ってひと舐めしてみる。 「……んんっ? 何かのジュースかしら。とっても甘いわ……うん、おいしい!!」  良かった、どうやら毒とかじゃないみたい。  まぁ元より唾液に浄化の能力がある私に、毒なんてモノは効かないんだけれどね。  そうと分かれば、遠慮なくゴクゴクと残りをいただいていく。  お腹だけじゃなくって喉もカラカラだったし、意外に気の利くマンドラゴラで助かった。  味は甘いのに、喉越しはスッキリとした味わい。  それになんだか滋味があって、疲れた身体がすうっと癒されていく。 「うぅ~ん。こんなに美味しい飲み物、初めて!! ありがとう!!」  少しずつ飲むつもりだったのに、コップの中はあっという間に空っぽになってしまった。  本音を言えば、もうちょっとお代わりが欲しいところだけれど。  ……あれ? そういえばコレってどこから持ってきたんだろう。私はこんな上等な物、持って来てなんかいないはず。 『あぁ、そう言ってもらえると、ジュースになった仲間のマンドラゴラたちも喜ぶぜ』  ――こくこくこく。 「ぶふぁ!?」  今更気付いたけど、この部屋に居たのは私とキャロラインだけじゃなかった。  そこら中でキャロラインと同じ姿をしたお化け人参たちが、全員同じ動作でウンウンと頷いていた。  は、八体も居るんだけど……いや、八体しか居ない!?  蒔いた種は十粒。  つまり、キャロを含めて十体居たはずだ!!  も、もしかして……あのジュースは……!? 『ところでお前さん、精霊姫じゃねぇな?』 「えっ……?」  そりゃそうだ。  私は純度百パーセントの人間族、正統派美少女、純正国産品だ。  というより魔族を見たことが無いから、どこがどう違うと言われても困るけれど。 『んー、ならどうして俺っちを育てられたんだ?』 「どうしてって……そんなの私が聞きたいぐらいなんですけど」  気付いたら育ってしまったんだから、理由なんて私に分かるわけがない。 『ここは瘴気と聖気が雑ざった魔境なんだろ? この土地じゃあ俺たちゃ育たねぇ。そもそも、俺たち幻想種は精霊姫レベルじゃねぇと発芽もさせられないはずなんだぜ?』  なんだぜ、と言われましても……。  精霊姫と言えば、魔族領の中にある精霊区の管理者だ。そしてその精霊区とは魔族領の農業を担う区域で、魔王の食糧庫とも言われる重要な場所。  ただでさえ魔族領は農作物の扱いが難しいということもあり、精霊姫によって厳重に管理されているという話だ。  それはあの魔王でさえ下手に手出しができず、彼女に対しては対等に接しているらしい。 「私はただ、貰った種を畑に蒔いただけよ?」 『それで? 莫大な魔力でも注いだのか? それともドラゴンの生き血でも撒いたか?』  なにやら物騒なことを言い始めるキャロライン。  生憎と私は魔法使いじゃないし、ドラゴンの生き血なんて持っていない。 「そんなことしてないわよ!! あの時はただ、上手く育ったらどうやって食べようかなぁって考えて……」 『んん?』 「気付いたら、口からヨダレが地面に垂れていて……そうしたら貴方たちが……」 『はあっ!?』  そうそう、思い出してきたわ。  せっかく野菜が育ったと思ったのに、いざ収穫しようとしたら……。 「引っこ抜いたお化け人参が話し掛けてきて……ってあら? どうしたの貴方たち!!」 『よ、ヨダレ……う、うぅううん……』  話の途中で、キャロラインを始めとしたマンドラゴラたちは全員真っ白になっていた。  そしてパタン、と一斉に床に倒れてしまった。  ――あれ? そんなに私のヨダレが嫌だったの!?
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