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『そ、そうか……俺っちは姫のヨダレで生まれた……のか……』
「う、うん。なんか、ゴメンね?」
現在私は気絶してしまったマンドラゴラズをベッドに乗せ、何故か彼らを必死に励ましていた。
さっきとは立場がまるで逆転してしまっている。
『いや、いいんだ……本来は精霊姫の涙で生まれるって聞いていたんだが……いや、しかし……そうか……』
なんだかさっきまでの勢いも萎んでしまったのか、遠い目をしているキャロライン。
でも聞いていたっていったい誰から?
生まれたばかりだよねキミたち……。
『と、ともかくだ。俺たちは、姫様を護り抜くことを使命とする!! だから困ったことがあったら、何でも俺たちに言いつけてくれ!!』
「え? 使命って……困ったことって急に言われても、なんていうか……」
現在進行形で困っている真っ最中なんだけど。
さっきまで住む場所の事であれだけ深刻になっていたのに、今じゃこの子たちの扱いで悩まされている。
帰ってくださいと言ったところで、何処にって感じだし……。
「そもそも、私は食糧を得る為に種を育てたのよ。でもさすがに貴方たちを食べるわけには……」
そういって九体のマンドラゴラズに視線を移す。
『キャロッ?』
『キャロキャロ~!!』
見た目こそ同じだけど、それぞれが個性を持っているみたいで表情や仕草もさまざま。
無邪気にベッドで跳ねたり、ゴロゴロ転がっている子も居る。
キャロラインは相変わらず強面だけど、性格は案外話しやすい人(?)だった。
最初はあれだけ不気味だと思っていたのに、こうしてみると愛嬌がある子たちだと思えてきた。
『生きる糧になることだって、姫の命を護ることに繋がる。だから俺たちは喜んでそれを全うするぜ? ましてや直接主の為に食材になれるとあっちゃ、それは誉れにしかならねぇからよ』
「そう言われても、何だか可哀想で……」
たしかに私の夢は魔境グルメを開拓することだ。
そのためには彼ら生き物の命を頂かなければならない。
『それとも何か? 姫は今まで生き物を食べたことがねぇのかい?』
「そんなことは無いけど……」
今までお肉とかを食べてきたんだから、今更なのかもしれないけれど。
自分の手で生き物の命を奪うという覚悟は、私にはまだ出来ていなかった。
『ならせめて、美味しくなるように料理してくれや。そんで、うめぇうめぇって喰ってくれ。俺たちマンドラゴラはそれで満足だからよ』
「……分かった。なら、よろしくお願いします」
彼らの覚悟を、私の優柔不断な気持ちでこれ以上踏み躙るわけにはいかない。
深々と頭を下げた私を見たマンドラゴラズはうんうん、と満足そうに頷いていた。
――ぐうぅううぅ
「うっ……!?」
『キャロキャロキャロ!! 姫は俺たちを御所望のようだ。さっそく調理に行くとするか!!』
『『『キャロッ!!』』』
うぅ、なんだか締まらないなぁ。
でもさっきのジュースが本当に美味しくて、もっと欲しいとお腹がずっと鳴いている。
ここは彼らの好意に従って、有り難くいただくとしよう。
キッチンへとやって来た私は燭台にあるロウソクに火を点けて、テーブルの上を軽く片付ける。
もう夜になってしまったし、今日は簡単にサラダを作ろう。
「ありがとう。大事にいただくね」
『キャロッッ!! ……キャロ!?』
一番乗りを上げてくれたマンドラゴラを抱え上げ、私はお礼を言ってキスをする。
私なりの感謝と……祈りだ。
するとみるみるうちにその子は真っ赤に染め上がり、ガクッと脱力してしまった。
「あ、あれ?」
『姫も案外大胆な事をするんだな……』
揺すってみても彼はそれっきり、動かない。
どうやら今のキスで息を引き取ってしまったらしい。
『キャロッ!! キャロキャロ~!!』
「ど、どうしたのよキミ達? ちょっと、テーブルに勝手に乗ろうとしないで!!」
それを見た他のマンドラゴラズが騒ぎ始めてしまった。
あれ? やっぱりマズかったかな……?
『おい、お前ら!! 自分も姫に褒美のキスをされたいとか、食べられたいとか立候補するんじゃねぇ! ちゃんと順番を守れ!!』
「……本当に食べられることを誇りに思っていたのね。でも今日は一人で大丈夫よ、ありがとう」
何しろ、マンドラゴラ一体で私の膝ぐらいの身長がある。幼児ぐらいの体格もあれば、私一人が数日かけて食べる分には十分な量だ。
すっかり大人しくなったマンドラゴラを机の上に乗せ、包丁代わりのナイフでサクサクとスティック状にカットしていく。
中身は人参のようにしっかりと詰まっていて……うん、内臓は無いみたい。良かった、血抜きとかワタ抜きとかしなくて済んだわ。
流石に同族の目の前で、スプラッタなことはしたくないものね……。
そうして切る作業を続けていく。
大して時間もかからず、マンドラゴラは野菜スティックへと化した。
――よし。
簡単な調味料はあるけれど、まずは何もつけずに食べてみよう。
「いただきます!!」
『おう、召し上がれ』
指でスティックを掴み、あーんと口の中へ。
「……こ、これは!!」
――甘い。
とんでもなく甘い。
さっきのジュースも相当な甘さだったけれど、これはまた別格だ。
ただ切っただけ。何も手を加えずに食べただけなのに。
あぁ、こんなに甘い野菜があっただなんて……!!
「これは……売れるわ。ここでキャロたちを育てて売れば……」
いえ、これを使って食堂を始めれば私も食べられるし、一石二鳥よね!?
幸いにも種はまだたくさんあるし、育つのもあっという間。
……うん、素晴らしいアイデアだわ。
我ながら完璧な図式!!
うふふ、やれるわ!! やるしかない!!
気付けば私は、フォークを掲げてババーンと仁王立ちしていた。
マンドラゴラズも周りでパチパチと拍手で応援してくれている。
ふふふ、名付けてジュリアの魔境食堂。
私がオーナーで、マンドラゴラズがアシスタント兼、食材ね!
そうと決まればさっそく準備に取り掛からねば。
取り敢えず、明日はその開店準備の為に村へ向かうわよ!!
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