3 起死回生の種

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『そ、そうか……俺っちは姫のヨダレで生まれた……のか……』 「う、うん。なんか、ゴメンね?」  現在私は気絶してしまったマンドラゴラズをベッドに乗せ、何故か彼らを必死に励ましていた。  さっきとは立場がまるで逆転してしまっている。 『いや、いいんだ……本来は精霊姫の涙で生まれるって聞いていたんだが……いや、しかし……そうか……』  なんだかさっきまでの勢いも(しぼ)んでしまったのか、遠い目をしているキャロライン。  でも聞いていたっていったい誰から?  生まれたばかりだよねキミたち……。 『と、ともかくだ。俺たちは、姫様を護り抜くことを使命とする!! だから困ったことがあったら、何でも俺たちに言いつけてくれ!!』 「え? 使命って……困ったことって急に言われても、なんていうか……」  現在進行形で困っている真っ最中なんだけど。  さっきまで住む場所の事であれだけ深刻になっていたのに、今じゃこの子たちの扱いで悩まされている。  帰ってくださいと言ったところで、何処にって感じだし……。 「そもそも、私は食糧を得る為に種を育てたのよ。でもさすがに貴方たちを食べるわけには……」  そういって九体のマンドラゴラズに視線を移す。 『キャロッ?』 『キャロキャロ~!!』  見た目こそ同じだけど、それぞれが個性を持っているみたいで表情や仕草もさまざま。  無邪気にベッドで跳ねたり、ゴロゴロ転がっている子も居る。  キャロラインは相変わらず強面(こわもて)だけど、性格は案外話しやすい人(?)だった。  最初はあれだけ不気味だと思っていたのに、こうしてみると愛嬌がある子たちだと思えてきた。 『生きる糧になることだって、姫の命を護ることに繋がる。だから俺たちは喜んでそれを(まっと)うするぜ? ましてや直接(あるじ)の為に食材になれるとあっちゃ、それは(ほま)れにしかならねぇからよ』 「そう言われても、何だか可哀想で……」  たしかに私の夢は魔境グルメを開拓することだ。  そのためには彼ら生き物の命を頂かなければならない。 『それとも何か? 姫は今まで生き物を食べたことがねぇのかい?』 「そんなことは無いけど……」  今までお肉とかを食べてきたんだから、今更なのかもしれないけれど。  自分の手で生き物の命を奪うという覚悟は、私にはまだ出来ていなかった。 『ならせめて、美味しくなるように料理してくれや。そんで、うめぇうめぇって喰ってくれ。俺たちマンドラゴラはそれで満足だからよ』 「……分かった。なら、よろしくお願いします」  彼らの覚悟を、私の優柔不断な気持ちでこれ以上踏み(にじ)るわけにはいかない。  深々と頭を下げた私を見たマンドラゴラズはうんうん、と満足そうに頷いていた。  ――ぐうぅううぅ 「うっ……!?」 『キャロキャロキャロ!! 姫は俺たちを御所望のようだ。さっそく調理に行くとするか!!』 『『『キャロッ!!』』』  うぅ、なんだか締まらないなぁ。  でもさっきのジュースが本当に美味しくて、もっと欲しいとお腹がずっと鳴いている。  ここは彼らの好意に従って、有り難くいただくとしよう。  キッチンへとやって来た私は燭台にあるロウソクに火を点けて、テーブルの上を軽く片付ける。  もう夜になってしまったし、今日は簡単にサラダを作ろう。 「ありがとう。大事にいただくね」 『キャロッッ!! ……キャロ!?』  一番乗りを上げてくれたマンドラゴラを抱え上げ、私はお礼を言ってキスをする。  私なりの感謝と……祈りだ。  するとみるみるうちにその子は真っ赤に染め上がり、ガクッと脱力してしまった。 「あ、あれ?」 『姫も案外大胆な事をするんだな……』  揺すってみても彼はそれっきり、動かない。  どうやら今のキスで息を引き取ってしまったらしい。 『キャロッ!! キャロキャロ~!!』 「ど、どうしたのよキミ達? ちょっと、テーブルに勝手に乗ろうとしないで!!」  それを見た他のマンドラゴラズが騒ぎ始めてしまった。  あれ? やっぱりマズかったかな……? 『おい、お前ら!! 自分も姫に褒美のキスをされたいとか、食べられたいとか立候補するんじゃねぇ! ちゃんと順番を守れ!!』 「……本当に食べられることを誇りに思っていたのね。でも今日は一人で大丈夫よ、ありがとう」  何しろ、マンドラゴラ一体で私の膝ぐらいの身長がある。幼児ぐらいの体格もあれば、私一人が数日かけて食べる分には十分な量だ。  すっかり大人しくなったマンドラゴラを机の上に乗せ、包丁代わりのナイフでサクサクとスティック状にカットしていく。  中身は人参のようにしっかりと詰まっていて……うん、内臓は無いみたい。良かった、血抜きとかワタ抜きとかしなくて済んだわ。  流石に同族の目の前で、スプラッタなことはしたくないものね……。  そうして切る作業を続けていく。  大して時間もかからず、マンドラゴラは野菜スティックへと化した。  ――よし。  簡単な調味料はあるけれど、まずは何もつけずに食べてみよう。 「いただきます!!」 『おう、召し上がれ』  指でスティックを掴み、あーんと口の中へ。 「……こ、これは!!」  ――甘い。  とんでもなく甘い。  さっきのジュースも相当な甘さだったけれど、これはまた別格だ。  ただ切っただけ。何も手を加えずに食べただけなのに。  あぁ、こんなに甘い野菜があっただなんて……!! 「これは……売れるわ。ここでキャロたちを育てて売れば……」  いえ、これを使って食堂を始めれば私も食べられるし、一石二鳥よね!?  幸いにも種はまだたくさんあるし、育つのもあっという間。  ……うん、素晴らしいアイデアだわ。  我ながら完璧な図式!!  うふふ、やれるわ!! やるしかない!!  気付けば私は、フォークを掲げてババーンと仁王立ちしていた。  マンドラゴラズも周りでパチパチと拍手で応援してくれている。  ふふふ、名付けてジュリアの魔境食堂。  私がオーナーで、マンドラゴラズがアシスタント兼、食材ね!  そうと決まればさっそく準備に取り掛からねば。  取り敢えず、明日はその開店準備の為に村へ向かうわよ!!
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