黒ニ染マレ

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 どちらも小者だが、悪口を言われた者は精神を病むし、酷ければ自殺したり、この村のように殺人を犯す者が現れることもある。黒面子によって村全体に悪意が蔓延したままの状態が続けば、いずれまた何かの形でトラブルが起こり、再び死人が出る可能性もあっただろう。小者だからと言って、決して看過できない存在なのだ。  多聞に群がる生徒を見ながらふと忌一は、そのうちの一人の生徒の肩を背後からポンポンと叩いた。振り向くと案の定、彼女の顔は真っ黒である。 「ちょっといいかな? 髪の毛に糸くずが……」  そう言って彼女の髪に触れている間に、忌一の左袖から龍蜷が飛び出し、彼女の顔をペロンとひと舐めした。少し離れた場所でその光景を見ていた凪は、思わず「ひゃっ!!」と声を上げそうになる。    しかし舐められた当の本人は全くの無反応だ。龍蜷のひと舐めで彼女の顔に憑いていた黒面子の一部は、ひと欠片も残さずにベロンと剥がれた。そして元の純朴そうな素顔が(あら)わになる。  「ゴメン。糸くずじゃなかったわ」と誤魔化して忌一がその場を離れると、一部始終を見ていた凪は「凄い!!」とテンションを上げ、龍蜷の頭を煙が出そうなほど撫で回した。 「こうやって龍蜷に黒面子を舐めさせれば、一時的には綺麗になるけど……」 「本体を祓わねば意味がないのう。それに一斉に悪意が広まったとなれば……」 (どこかに聞き耳がいるってことか?)  教室を見回してみるが、聞き耳らしき異形の憑いた生徒は見当たらない。これまで目にした黒い顔の生徒数は、ざっと数えても六十人は超えているイメージだ。悪意の拡散が一人の生徒に憑りついた聞き耳のせいだとしたら、ソフトボール大以上には成長しているはずである。  そんな聞き耳が憑いていたらさすがに一発でわかりそうなものだが、そのような生徒にはまだ出会っていない。  ひとしきりサインを書き終えた多聞が、やっと忌一と凪の元へ近づいてきて「黒い顔について何かわかった?」と訊ねた。忌一はこれまでに桜爺から聞いた情報と、龍蜷のひと舐めで黒面子が剥がれたことを話す。 「今忌一君がこの学校にいるタイミングで、出来るだけ何とかしてあげたいところだね」 「俺もそう思うんだけど、さすがに校舎中をしらみつぶしに探しても、必ず本体が見つかるかどうか……」  清正女子高等学校の敷地はかなり広く、生徒数も多い。門の外ですれ違った生徒にも黒面子が憑いていたように、既に下校してしまった生徒もいる。
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