47人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあ、他の観点からの情報は何かないかな? 例えば、広まった悪意は一体誰に向けられたものなのか、とか」
悪意が誰に向けられたものかがわかれば、悪意の発生場所――黒面子がどこに居るのかも特定出来るのでは? というのが多聞の意見だった。
桜爺の話に照らし合わせて考えれば、村で悪意を向けられた男は、向けた人間を殺すという狂気に及んだわけだが、おそらく最初に黒面子が憑りついたのは、男の周囲の村人の誰かだ。以前からその男の評判は悪く、元々男を疎ましく思っていた誰かの悪意に引き寄せられ、黒面子が憑りついた可能性は高い。
もっとも明水ほどの力があれば、本体が誰に憑りついているかを特定せずとも、村人たちを一ヶ所に集めさえすればあとは一斉に祓うだけで事足りるのだろうが。
悪意を向けられた人間は、精神がまともではいられない可能性が高い。村の男は耐え切れずに殺人を犯したが、学校という場所と女子生徒であることを考えれば、まず一番に考えられるのは不登校になったり、最悪の場合は自死してしまう可能性だ。
忌一は凪に、「この学校で不登校になった人とか、虐めに遭ってる人の話は聞いたことない?」と訊ねた。しかし凪の回答は、
「特に見た覚えも聞いた覚えもありませんね……。もしかしたら私が知らないだけかもしれないけど」
というものだった。
クラスメイトと上手くやっているように見えた凪だが、やはり他人には見えないものが視えてしまう能力のせいか、積極的に他人と深い関わりを持ってはいないのかもしれない。が、少なくともこのクラスには、不登校の人間も虐めも存在してはいないようだ。
他のクラスについてはどう調べれば……と考えていたその時、凪が急に「あれ? 鈴木さんは?」と言い出した。
「どうかした?」
「さっき龍蜷ちゃんに顔を舐められた鈴木さんの姿が、見えないんです」
(顔が綺麗に戻ったのは、さっき声をかけてきた二人組の一人だったのか)
確かに先ほど露わになったはずの女子生徒、鈴木の顔はクラスの何処にもなかった。すると多聞が、「鈴木さんてあの子じゃないの? 最後にサインしたからよく覚えてるんだけど」と言って、黒い顔の二人組の方を指差す。二人は一人が持つスマホを一緒に覗き込んでいた。
(どういうことだ? まさかこの短時間にまた黒面子が憑いたのか?)
そう思ったのは忌一だけではなく、凪も信じられないという顔つきをしていた。
多聞はその二人組に近寄ると、「君、鈴木さんだよね? このクラスには君以外にも鈴木さんているの?」と声を掛けた。
「一人いるけど、部活へ行ったはずだよ。あの子バレー部だし」
部活に出席する生徒は放課後になるとすぐに教室を出るので、もう一人の鈴木は多聞らが訪れた時には既にここにはいなかったという。
最初のコメントを投稿しよう!