黒ニ染マレ

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 忌一はもう一度龍蜷に命令して、二人組の女子生徒の顔をこっそり舐めさせた。すると確かに、二人のうちの一人は先ほど忌一が声を掛けた女子生徒だった。 「松原さん……だっけ? さっきから私のことジロジロ見てるけど、また私の髪に何か付いてる?」 「あぁ、ゴメン。さっき俺が声を掛けてから、何をしてたのか気になってさ」 「何してたって……多聞先生にサイン貰って、ここでサトちゃんと看板作ってたくらいだけど」  鈴木の隣に立つ佐藤は、その言葉にコクリと頷く。二人ともごくごくありふれた女子高生で、とても誰かに悪意を持っているようには見えなかった。  二人はクラスで出店する店の看板製作担当のようだ。そこには黒地に塗られたベニア板に赤いペンキで「お化け屋敷」と書かれている。字の周りは見やすくなるよう白く縁どられ、書体もちゃんとおどろおどろしい。 「さっき他の子から聞いたんだけど、このクラスって本当は学園祭でパンケーキ屋をやりたかったんだって?」  サインを書いていた時に仕入れたのか、多聞がそう言うと鈴木と佐藤の二人は水を得た魚のように、「そうそう!!」と身を乗り出した。  二人の話によれば、清正女子は女子高ということもあって、昔から学園祭では飲食店の出店が多かったそうだ。商品のクオリティの高さから、来場者も主にそれを楽しみにしている人が多く、それによって清正女子の生徒が地域の食品会社へ就職するパターンも多いという。  食品関係の就職に強いことと、清正女子の学園祭で飲食店をやりたい目的でここを受験する生徒も一定数いるようで、何年も学園祭での飲食店出店が慣例化していたが、今度の生徒会になってから急に『飲食店の出店は不可』と言い出したようだ。  主な理由としては、経費と衛生面の問題らしいが、その詳細は語られていないらしい。 「本当頭にくる、あの生徒会長。自分は裏で好き勝手やってるくせに」  そう吐き捨てるように鈴木が言うと、多聞と忌一は「好き勝手?」とハモった。佐藤は手にしていたスマホ画面を見せると、そこには生徒会長らしき女子生徒が若い男性教師とラブホテルへ入った旨の文章が書かれており、ご丁寧にも証拠写真まで添付されていた。 「これは?」 「誰が作ったのかは知らないけど、『清正女子の裏話』とかいうTwitterアカウントがあって、そこに清正生徒間の噂話が載るの」 「このアカウント、フォローしてたの?」 「いや、こんなアカウントがあるなんて、私もこの前初めて知った」  鈴木の言う「この前」とは、四日前の夜だと言う。忌一と凪は思わず顔を見合わせた。
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