黒ニ染マレ

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 その物言いは、極めて冷静で淡々としている。その態度からは、胡麻化したり動揺している雰囲気を一ミリも感じなかった。むしろ「何も後ろめたいことは無いので、どうぞ何でも訊いてください」と言わんばかりの、正々堂々としたものだ。 「じゃあ、あれは完全なるフェイクニュース?」 「そうです」 「だとすると、この画像には大人顔負けの加工技術が使われていることになるけど、この学校ではそんな技術まで勉強を?」 「うちの学校では、選択授業に情報処理のカリキュラムがありますが、画像編集ソフトを使った授業はありません。個人が独自に手に入れた技能となれば把握のしようもないですが、ひとつだけ可能性があるとしたら、うちの学校にはパソコン部があります」  総勢八名しかいない小さな部だが、今度の学園祭にも部として参加表明をしており、今日もパソコン室で来場者が遊べるゲームを作っているはずとのことだった。 「生徒会長として、あのツイートが全くのデタラメだと釈明はしないのかい?」 「私は幼い頃から、根も葉もないことを言われるのに慣れてるんです。面と向かって言われたら否定しますけど、陰で何を言われてもそれは卑怯な人間のやることですから、相手にしないのが一番かなと」  そう言って彼女は微笑んだ。凪のクラスメイトが「全く意に介す素振りが無い」と言ったのを思い出すほどの清々しさだ。彼女は美人で聡明で、若いのにとても芯の強い人物だった。  学園祭の飲食店出店を中止したのは、元々数年前から学校側より中止の要請があったからだという。年々学園祭で出品されるメニューが奇抜化しており、陰で来場者とのトラブルが絶えず、その数は増加傾向にあったらしい。それで近年学校側は、この問題を明るみにしないよう手を尽くすことに限界を感じていたのだ。  この状態で食中毒でも起こせば、当事者の生徒が傷つくだけでなく、今まで清正女子が築き上げてきた名声が一発で地に落ちるだろう。それは二度と学園祭での飲食店出店が叶わなくなるだけでなく、就職コースの生徒たちの未来をも奪うことを意味していた。  だがこれまでの生徒会は、生徒らの意向により学校側の要請には応じず、聞く耳を持たなかった。それがやっと中止に踏み切れたのは、彼女が生徒会長だったからなのだろう。彼女は清正女子の嫌われ役を、自ら買って出てくれたのだ。  多聞らは生徒会室を出ると、パソコン部の部室にもなっているパソコン室へと向かった。『清正女子の裏話』のアカウント管理者が絶対にいるとまでは思わないが、少なくともフェイクニュースの画像加工をした人物の手がかりについて、何かしらの情報が得られるかもしれないと思ったからだ。
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