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未だに真っ黒な顔の生徒たちとすれ違う廊下を歩きながら、忌一は「でもあのツイート、あの生徒会長だから耐えられたんだよな……」とこぼす。
「私だったら恥ずかしくてもう学校行けないかも」
「君の反応が普通じゃないかな。あの生徒会長は、女子高生としては破格だね」
凪は自分の両腕を抱え、身震いしている。今はSNSによる虐めが簡単に出来てしまう世の中だ。彼女は幸い、これまでにそういった虐めに遭ったり、された人を見たことが無かったが、中学の頃には実際他のクラスで不登校になった者がいたと言う。
SNSの発達により、悪意を広めるのはとても手軽で簡単だ。RTボタンやコピペをするだけで、ネット上では簡単に悪意を広められるのだから、広めている本人には自覚も罪悪感も殆ど無いのだろう。
しかし、標的にされた者にとってはRTの数やいいねの数、或いは既読数やグループラインの人数分だけ、自分を中傷している人数が明らかにされている。中傷内容もその数の分だけ倍増されて傷つくのだ。
何とも恐ろしい世の中になったものだと、忌一も身震いする。口伝えで悪口を言っていた頃の方が、曖昧でまだマシだと思える時代が来てしまったのだ。
「それにしても、このアカウントの主が黒面子と聞き耳に憑りつかれてるってことなのかな?」
忌一のぼやきに桜爺は「聞き耳は今回関係ないかもしれんのう」と答えた。聞き耳は噂好きな人間に憑りつく異形なので、人間の口を使って吹聴させるのが好きなのであって、インターネットを駆使した悪知恵を働かせる能力まではないという。
「じゃが、黒面子が厄介な者に憑りついたのは確かじゃな」
パソコン室は北館の三階にあった。清正女子の校舎は、南館は主に生徒の教室、北館はその他の特別教室という構造になっている。
パソコン室の広さは普通の教室とほぼ同じ大きさで、床に紺色の絨毯が敷き詰められており、キャスター付きの長机にデスクトップパソコンが整然と並んでいる。この一室で三十人が同時にパソコンを使用出来るようで、その前方中央の八台のパソコンを、パソコン部員が使用していた。
扉窓越しに室内を覗くと、多聞は開口一番「どう? 生徒の顔は」と二人に訊ねる。
「いや、皆綺麗なもんだよ」
「誰も黒くないですね」
「マジで? じゃあこのパソコン部は関係ないのかな……」
まず凪だけがパソコン室へ入り、部長と顧問に許可を取った上で忌一と多聞が入室した。パソコン部員八名は制作に集中しており、二人の存在を認めてもさして気には留めず、一心不乱でモニター画面を見つめている。
多聞はパソコン部の部長に「このアカウントを知っていますか?」と、『清正女子の裏話』のプロフィールページを見せた。
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