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凪と忌一の二人は顔を見合わせ、困惑していた。忌一は口を開こうとするが、次の言葉がなかなか出てこない。そんな二人を不審に思った多聞が「どうしたの?」と訊くと、「いやだって……どっちが今泉さんなのかと思って」と呟く。
「どっちが今泉さんて……もしかして君たちには、彼女の他に誰か視えてるの?」
その言葉に二人が同時に「え!?」と声を発した瞬間、廊下に現れた生徒のうちの一人が急にクルッと背を向け、猛ダッシュで駆け出した。忌一は咄嗟に「待て!!」と叫び、後を追いかける。残された多聞と凪の二人は呆気に取られ、走り去る忌一の後姿を見送ることしかできなかった。
逃げた生徒は階段を駆け下り、忌一もすぐにその後を追ったが、二階と一階の間の踊り場まで下りたところで彼女の姿を見失ってしまった。もしかして二階の廊下を走って逃げたのかもと再び二階まで上がってみるが、廊下には学園祭の準備をする一年生の姿しか見えない。廊下の生徒に「今誰か走って来なかった?」と訊いてみるが、「誰も走ってないけど」という返事しかなかった。
乱れる息を整えながら、忌一が再び三階への階段を上り始めたところで、上から凪と多聞が降りてくるのが見えた。
「忌一さん、今のって……」
「多分幽霊だ。生きてる人間じゃない」
「珍しいね? 忌一君が生者と死者を見間違えるなんて」
すると忌一は「それは多分、霊の顔にも黒面子が憑いてたから」と答える。それには凪も、同意を込めてコクコクと頷いた。
忌一や凪のような視える人間にとって、死者の霊はモノクロで見えている。露出した肌が土気色だったり、服の色がくすんでいたりするとそれが霊だとすぐにわかるのだが、霊の顔にも黒面子の一部が覆っており、肌色だと確認しやすい顔は黒に染められ、その上この学校の制服は、ブラウスが白の他は黒一色なのも災いした。大半の部分がモノクロなので、生者との区別が遅れたのだ。
「ちなみにさっき呼び出した今泉さんだけど、ツイートの主で間違いなさそうだよ」
「『清正女子の裏話』のアカウント管理者ってこと?」
「あぁ。そのアカウント名を出したら、凄く挙動不審だった」
凪もそうだと言わんばかりに大きくと頷く。
「じゃが、悪意を拡散させたのは、先ほどの悪霊の仕業じゃな」
桜爺は姿を見せないまま、忌一の胸元から声だけを発する。
今泉が『清正女子の裏話』というアカウントを作り噂話をツイートしていたのは、聞き耳のような別の異形の仕業ではなく、先ほど今泉と現れ急に逃げ出した、この学校の生徒らしき悪霊の仕業だと桜爺は言うのだ。
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