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「あれって悪霊なんだ……」
「黒面子が憑いておるからな。ああなってはただの霊ではおられまい」
「忌一君が追いかけた霊がここの生徒の格好なら、この学校の生徒で既に亡くなった子がいるってことかな?」
すると凪は逡巡した後、「以前自殺した生徒がいると聞いたことが……。清水先生なら、詳しいことがわかるかもしれません」と言う。
三人は頷くと、再び職員室へ向かい階段を降り始めるのだった。
*
職員室に居た清水は、多聞から「過去に自殺した生徒がいるとお聞きしたのですが」と聞くと、何も訊かずに校舎の外へと三人を案内した。
そこは、北館の東側にあたるひっそりとした場所だった。北館も南館も東側側面には非常階段が設置されており、その他には敷地を囲う植木や塀しか無い殺風景な場所だ。陽の傾きかけた今時分には、校舎や敷地の塀の陰で西日も差し込まず、かなり暗くて寂しい印象となる。
「今から九年前、この非常階段の四階から身を投げて亡くなった生徒がいます。私が担当していたクラスの生徒でした」
そう言って清水は、しんみりとした瞳で非常階段の四階の扉の辺りを見つめている。原因を訊ねると、「よくわからないのですが、どうやら虐めがあったみたいで……。担任のくせに情けない話ですが」と清水は恐縮した。
その時、忌一が非常階段一番下のすぐそばに小さな石碑を見つけ、「あれは?」と訊ねる。
「あぁ、これは昔この場所に尋常小学校が建っていたという史跡ですよ」
自殺した生徒がこの石碑の上に落下したなどという直接の関係はないが、この石碑まで彼女の血液が飛んだ可能性は、もしかしたらあるかもしれないとのことだった。しかしその程度だと清水は言うが、忌一はその石碑から漠然とした嫌な気配を察知していた。それは凪も同じで、彼女は忌一のジャケットの袖を引っ張り、「あの石碑、なんか変な感じしません?」と口走る。
忌一の内ポケットから桜爺がひょいっと地上へ降り立ち、無言でその石碑のそばまで近寄る。そして石の周りをぐるっと巡りながら、三ヶ所で立ち止まって印を結んだ。そのちょうど三ヶ所目で印を結び終えた瞬間、石碑の下から石を囲むように青白い三角柱の光が天へ向かって伸び、石の中から黒い影がぬうっと現れた。
「こやつが黒面子の本体じゃ!!!」
その影は頭がしゃもじのように丸い人影で、どんどん大きく膨んだかと思うと、全長二メートル半ほどの巨人になった。おそらく元々の黒面子の体長は小さかったのだろうが、沢山の生徒から悪意を吸い取り、これほどの大きさにまで成長したのだろう。
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