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黒面子は石碑を囲んだ青白い三角柱の光から外へ逃げたいようだが、光はガラスの壁のようにそこから一歩も黒面子を出さない。さながら黒面子は、大道芸人のようなパントマイムを強いられているようだ。光の三角柱は、異形を閉じ込める結界になっていた。
忌一の左の袖口からおもむろに龍蜷が顔を出すと、瞳を輝かせて忌一を見ている。
「いいよ。食べれば」
呆れながらそう許可すると、龍蜷は首から上を瞬時に本来の龍の姿に巨大化させ、結界の中で身動きの取れなくなった黒面子を頭からパクリとひと飲みにした。すると黒面子は「きぃぃぃぃいいいいい!!!」という金切り声を響かせる。
その断末魔は多聞にも聞こえたようで、その場に居た清水以外の三人が同時に両耳を塞いだ。清水だけは何が起きているのかわからず、一人困惑している。
「今ので黒面子は消滅したってこと?」
多聞が訊ねると、それには忌一ではなく桜爺が口を開いた。
「生徒の顔に張り付いていた黒面子の一部は全て祓われたじゃろうな。じゃが、悪意の拡散を仕向けた悪霊を確認する必要があるのう。あやつがもし黒面子に憑りつかれる前から悪霊じゃったら、あやつが黒面子を呼んだ可能性もあるのでな」
もしあの女子生徒の霊が元々悪意を持っていたなら、彼女がまた別の黒面子を呼び出し、この学校でまた同じことが起こる可能性もあると言うのだ。
「さっきの霊を、このデカい校舎内で探すのか?」
忌一のぼやきに凪が「私と手分けすれば見つかりますかね?」と申し出たが、それはあまりにも現実的ではなかった。何故なら、いくら忌一と凪に霊の姿が視えるとは言え、先ほどのように上手く撒かれてしまう可能性があるからだ。
幽霊にとって、現実世界の物質は邪魔にならない。壁や床、天井などがすり抜けられる以上、幽霊にとって圧倒的なアドバンテージのある鬼ごっこは、何としても避けたいところだ。
「じゃあ、彼女をここに呼んでみるのはどうかな?」
そう言い出したのは、意外にも多聞だった。
「そんなこと出来るんですか?」
「目的の霊が呼べるかはわからないけど、以前取材した時に教えても貰ったんだよ、霊を呼び出す方法」
その方法を教えてくれたのは、怪異現象が起こると評判の寺の僧侶だった。その方法で多聞は今まで、心霊スポットなどを訪れた折に何度か故意に霊を呼び出したことがあるという。それによって心霊写真も撮れたのだと。
「危ないことをするのう……」
「もちろん忌一君みたいな霊能力者を連れている時限定ですよ、こんなことするのは」
そう言われて忌一は複雑な気持ちになった。頼りにされるのは嬉しいが、実質忌一自身は身を守る術を何一つ持っていないからだ。
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