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「あの……もしかして多聞先生ですか?」
緊張しているのか、彼女は二人を見比べながらおずおずと訊ねる。
「君がDMをくれた高橋凪さん?」
「そうです! まさか本当に来てくれるなんて……感激です!!」
そう言って凪は、差し出された多聞の手を飛びつくように握る。現れた時とは打って変わり、テンションを上げれば今時のごくありふれた女子高生らしい姿に見えた。
「あの……それで、こちらは?」
「あぁ、彼は松原忌一君。残念ながら僕には大した霊感がなくて、君が教えてくれた状況を視認することは出来ないけど、彼ならそれが出来ると思って一緒に来て貰ったんだ」
その説明を聞いても凪は、忌一が視線を合わせようとすると多聞の後ろに隠れてしまう。
「どうしたの?」
「松原さんの……気配がとても怖くて……」
凪は怯えるような瞳で、忌一を見ている。
「あ、もしかしてアレかな? 彼女、『龍蜷』や『桜爺』の気配を感じてるんじゃない? 凄いね」
「りゅうけん? おうじい?」
忌一はおもむろに凪の前へ左手を差し出すと、そのジャケットの袖口からニョロンと鰻のような頭が飛び出した。その瞬間、凪は「きゃっ!!」と悲鳴を上げ、また多聞の陰に隠れる。
「これは龍蜷。どっちも俺の式神だよ」
そう言うと、彼女は恐る恐る多聞の後ろから顔を覗かせ、龍蜷をじっと見つめる。一方龍蜷はというと、片手を振って友好的な態度を見せた。式神が視えるだけでも相当な能力なのだが、きっと式神以外の気配も感じているのだなと、忌一は目を見張る。
(この子はもしかしたら、俺とほぼ同じものが視えるのかもしれない。ってことは、やっぱりアレも視えてるのか……)
校門をくぐり下校していく生徒を見ながら、忌一は深いため息をついた。
今まで陰陽師以外で、忌一の中の者の気配を察知出来た人間には出会ったことが無かった。唯一の霊能力仲間がこの多聞だったのだが、彼の感知能力は耳だけに限られている。
凪は式神という存在がわかっているのかいないのか、未だに忌一への警戒を解こうとはせず、訝し気な視線を向けていた。
「と、とりあえず、入門許可をもらいに行こうか」
「そうですね、案内します」
凪は忌一と目を合わせずにそう告げると、校内へと歩き出した。そしてボソッと、
「それに忌一さんなら、私が口で説明するより直接見てもらった方が早いと思うので」
と、呟くのだった。
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