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清正女子高等学校は、進学と就職の二つのコースがあり、定員三十名ほどのクラスが一学年で計八クラスある。それが三学年分あるので、単純に計算すれば総生徒数は約七百二十名という規模の学校だ。
校舎は四階建ての建物が南北に二棟あり、その他には体育館と武道場、そして屋内プールがある。さすが私立高と言うべきか、設備は整っていてどれも新しく綺麗だ。
校舎内は放課後にしてはまだ半数以上の生徒が残っている印象で、部活動だけでは説明がつかないほどの喧噪だった。その中を凪に導かれ、多聞と忌一はひたすら北館の一階にある職員室へと向かう。
「もうすぐ学園祭があって、今はどこもその準備中なんです」
「なるほどね」
校門前とは打って変わり、校舎内にはボレロを脱いだワンピース姿やジャージ姿、体育着姿といった思い思いの恰好をした生徒たちがいる。彼女らの年齢特有のエネルギッシュさや、滅多に入ることの出来ない女性だけの園というシチュエーションに、多聞の胸は否が応にも高鳴った。
「最近の女子高生は、発育がいいよね」
「……」
「あれ? 忌一君はそう思わない?」
「へ? あぁ、うん……」
同世代として同調してくれると思っていた多聞の当ては外れ、忌一は生返事だ。まだ従妹のことを気にしているのかとも思ったが、それにしては真顔で女子生徒たちを観察している。そしてその瞳には、警戒の色も窺えた。
廊下をすれ違う女子生徒たちは、普段見かけない人物が珍しいのか、それとも多聞らのような年齢の男性がこの校舎内にいるのが珍しいのか、誰もがじろじろと二人を値踏みするような瞳で見た。そして近くに友人がいれば何事かをひそひそと共有したり、それについて笑ったりしている。
なるべく奇異の眼で見られるのを避けつつ足早に職員室へ辿り着くと、予め多聞がやってくることを聞き及んでいた清水と名乗る男性教諭が、快く二人を迎えてくれた。清水は多聞より十歳以上は年上に見えるほど頭部が物悲しいが、実年齢は不詳だ。
職員室には、並ぶ机の割に教師が半数ほどしかいない印象だが、ひっきりなしに生徒が出入りするせいか、雑然としていた。
「まさか生で多聞先生にお会い出来るとは!」
「こちらこそ突然押しかけてすみません。取材を終えたらすぐに立ち去りますんで」
「何をおっしゃいますか! 先生の次回作に貢献出来るなら、とことん取材していってください。私、先生の大ファンでして、著書もほらこの通り」
待ってましたとばかりに清水は机に置いてあった多聞の著書を数冊掴み、本人の前へ差し出す。そのうち一冊の表紙を捲り、同時に黒いマジックペンも手渡した。多聞は特に渋る様子もなく、渡されたペンで表紙裏にサラサラとサインを書いていく。
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