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清水から二人分の『入門許可証』を受け取ると、多聞と忌一は早速それを首から下げた。それを付けていれば今日一日、事情を知らない者が見ても一応不審者ではないことが証明できるのだろう。
清水にお礼を述べつつ職員室を出ると、二人は再び凪の案内するままに校内を歩き出した。階段を上りながら多聞はおもむろに、「ところで忌一君、この学校がどんな状況なのかわかった?」と訊ねる。
「あぁ。結構な人数の生徒の顔が……真っ黒になってる」
最初にそれを見たのは、最寄りのバス停から徒歩で清正女子へと向かう道中だった。自転車に乗って下校をしていた生徒とすれ違ったのだが、その顔が文字通り真っ黒だったのだ。
それは日に焼けて真っ黒というメラニン色素レベルの話ではなく、黒色のペンキを直接塗ったとか、黒い泥パックを付けているような“真っ黒”だ。
自転車ですれ違ったのは一瞬だったので、最初は見間違いかもしれないとも思ったが、そのうち校舎が近くなるにつれて女子生徒の集団とすれ違い、それは確信に変わった。その集団の生徒全員が真っ黒だったのだ。
よく見れば一応黒い顔にも顔らしい凹凸はあるのだが、目や鼻、口などは一切見あたらない。会話は交わしているけども口は全く開いておらず、黒い綿棒がどこからともなく声だけ発しているかのように、忌一には視えていた。
(どおりで僕の意見には賛同できないわけだな)
「最近の女子高生は、発育がいいよね」と口走ったが、忌一が生返事だったのは、彼には既に彼女らの顔が真っ黒に見えていて、異様過ぎてとても同調など出来なかったのだろうと、多聞は納得する。
改めて凪を振り返ると多聞は、
「にわかには信じ難かったけど、君の話は本当だったんだね」
と、目を丸くした。彼女から送られたDMにも、『自分の通う女子高で、黒い顔をした生徒が増えている』という旨が書かれていたのだ。
「この黒い顔を初めて見た時は、本当に驚いてとても恐ろしかったけど、関わらなければ問題ないかと思って無視しようとしたんです。そうしたら……」
三人は二階の渡り廊下で南館へと移り、南館二階の『1年5組』と表示された教室の前に辿り着いていた。そこは凪のクラスらしく、彼女がおもむろに扉を開けると、室内には二十人以上の生徒がまだ残っている。その八割以上の生徒の顔が、忌一と凪の二人の眼には真っ黒に見えていた。
突然入室してきた二人の成人男性に対し生徒たちは警戒していたが、凪が多聞の名前を出して「次回作の取材に来た」と説明すると、一部の生徒たちは熱狂的な盛り上がりを見せた。
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