戻ってきた日常

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戻ってきた日常

 いつの間にか6月に入り、本格的に暑くなってきた。この学校にも夏が押し寄せてきている。  先生と話さなくなって、もう何日になるだろう。私は新学期当初みたいに、会議や朝礼での姿をただ遠くから眺めているだけの生活に戻った。一度だけ職員室の前で挨拶をしたけれど、それだけ。  校長室に出入りする先生達の顔ぶれが日に日に増えていった。先生の影響力が大きくなっていくのが職員室の雰囲気で分かる。  4限目が終わった後、国語科準備室に入ると、珍しく森下先生がコーヒーカップを手にしてデスクに座っていた。  森下先生は、顧問をしているハンドボール部の部員が窃盗事件を起こしてから、忙しくなったのか国語科準備室に出入りすることがほとんどなくなった。 「森下先生、ここでお昼ですか? 珍しいですね」  私は教科書類を片付けて、お弁当が入った小さな保冷バッグを取りだした。 「ちょっとね。心を落ち着かせようかと思って」 「はあ」  お昼も食べずにどうしたんだろう。森下先生は、さっきからコーヒーカップを手にしたまま、それを飲もうともしない。 「あのさ、桜井先生聞いてくれる?」 「何でしょう、食べながらでいいなら聞きますけど」  私はおにぎりが包まれたラップを剥がしながら答えた。昼食くらいゆっくり食べたいが、次の授業で使うプリントをまだコピーしていない。食べ終えたら印刷室に行かないと。 「うちの部員の窃盗事件のこと、決着がついたんだ」  2週間ほど前、高等部2年の男子生徒が、自転車の窃盗事件を起こした。森下先生が顧問をしているハンドボール部の部員で、部活帰りに事件を起こしたらしい。部活が遅くなって、塾に遅刻しそうになったから盗んだと生徒はわけを話したという。  森下先生は下校時刻が過ぎるまで部活をさせていたこと、それが部員達に悪影響を与えていたことを知ってひどく落ち込んだという。  校長室で、、教頭、生活指導主任、担任、森下先生の5人で話し合いがもたれた。先生と教頭で、処分に対する意見が分かれたそうだ。  教頭は、窃盗を起こした生徒は退学にすべきだと進言した。先生は反対した。退学させてどうするんだと、それが本人のためになるのかと。 「結局、教頭は生徒を退学にしないのなら、私は学校を辞めるとまで言い始めてさ」 「ほんとですか?」私は耳を疑った。 「校長先生は引き止めたよ。教頭先生がいないと困るって。この学校を一番よく知ってるのは教頭だってね」
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