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校長に頭を下げられて、ようやく教頭は怒りを収めたという。
「教頭なんて、クビにしちゃえばよかったのに」
持っていたおにぎりを、大口を開けてかじりついた。
「僕も最初はそう思ったけどさ。結局、この学校に管理職として一番長くいるのは教頭だからね。良くも悪くも慣れてるし。校長もそれをよく分かってたんじゃないかな」
前任の校長が持病で早期退職した後、教頭は自分が校長になるつもりだったのだろう。それなのに理事会が任命したのは、槙校長だった。
「嫉妬してただけなんだよ、教頭は。校長が折れたのをあっさり受け入れて飄々としてんだもん」
「じゃあ、男子生徒の退学はなし?」
「うん、退学はなし。校長訓戒のみ」
そのあと森下先生は、部員である男子生徒を呼び出して校長室で話をした。
校長は男子生徒に「次は無いぞ」ときっぱりと告げたそうだ。うなだれる生徒に先生は言った「お前の未来に賭けているから処分はしないんだと。大事なのはこれからどうするかだ」と。
結局のところ、男子生徒の退学も教頭のクビも、先生が救ったということになるのだろうか。
「あいつは高校総体の予選は出られなくなっちゃったけど、まだ来年もある。この二週間、ほんっとヒヤヒヤしたよ」
森下先生は、生徒本人かと思うような安堵の笑みを浮かべた。
「で、今度、僕の授業見学に行くからって校長先生に言われてさ。対策法教えてよ。教え子なんだって?」
先生に「月に二回は国語の教科会議の時間を取れ」と言われたらしい。森下先生はリーダーになれと。教科会議とは国語科教員で集まって成績や授業のことなど検討する会議のことだ。そういえば今学期になってからバタバタしていて、会議なんてやれてなかった。
「部活に熱を入れすぎてたからな」と森下先生は苦笑いした。
「厳しいですよ、先生は」
「厳しくてもいい、僕は校長先生についてくよ」
(また一人、先生の信者が増えた......)
「いや、やっぱりさ。教科会議の二回のうち一回は、飲み会にしない? 柚木先生と、講師のベテラン先生もできれば来てもらって」
「はぁ、私はかまいませんけど」
森下先生は良いアイディアだなあとつぶやきながら、上機嫌で部屋から出ていってしまった。
しんと静まった部屋の中で、一人だけ世界に取り残されてしまったみたい。
先生の話を他の人から聞くたびに、胸が痛くなる。先生は近くにいるのに、私からどんどん離れて先へと進んでいく。
分かっていることなのに、そばで見ているのは苦しかった。もうこんな気持ち終わりにしたい。
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