先生わたしを振ってください

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「桜井を……俺が振れって?」 「はい」  鼓動が速すぎて胸が痛くなる。  何秒たったのか分からない、永遠に続くんじゃないかって思うほど待った。あんなに仕事では饒舌な先生が何も言わない。  私はいてもたってもいられなくなって、ごくりと唾を飲み込んだ。 「......先生?」  先生はぐっと近寄って私の顔をのぞき込んだ。その瞳は目を奪われるほど真剣で、私は射貫かれたみたいに動けなくなる。 「桜井」 「はいっ」 「さっきお前は聞いたよな、俺にやりたいことはあるかって」 「え、あ、はい。先生したいことがあるって」 「......聞いてくれないのか、何がしたいのかって」  なんだろう、私には意味が分からない。でも本当は知りたくてたまらなかった。 「質問、してもいいんですか」 「聞いてくれ」 「先生の、いえ、槙さんのしたいことって……何ですか」 「……(しおり)さん」 「はい?」 「俺と結婚してくれませんか」 「…………え」  けっこん、って言った?   私の聞き間違いだろうか。  頭の中が思考停止に陥る。 「結婚って、言いました?」 「言ったよ」 「結婚って、わ、私とですか」 「当たり前だろ」 「付き合ってもいないのに?」 「付き合ってなくても、お前は俺の事もう全部知ってる」  私は思いきり頭を振った。 「そんなことない、私はまだ先生のことなんにも知らない」 「何を知らない?」  私は必死に言葉を連ねた。 「今日だって……先生とご飯食べたのも初めてだし、甘い物が好きなんて知らなかった。私服だって、乗ってる車だって初めて見た」 「なにが知りたい? なんでも答える」  それが嘘じゃないことは分かっていた。先生は聞けばなんでも答えてくれた。包み隠さず教えてくれた。 「それに、校長と教師が結婚なんて聞いたことありません。学校がひっくり返るくらいの大事件になります」 「理事会でもPTA総会でも、なんなら全校朝礼ででも俺から報告する」 「ま、待って、そうじゃなくて」 「......返事はいつまでも待つよ」  先生の言い方があまりにやさしくて、それ以上言い返すことができなかった。 「槙さん。ひとつ、聞いてもいいですか」 「なに?」 「私のこと、好きですか」 「そうじゃなきゃプロポーズなんてしないよ」 「ちゃんと……教えてください」
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