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酔いが回って
先生がこの学校に校長として戻ってくると知って、学校中で一番驚いたのは私に違いない。教師という仕事に疲れ果てていた私に、差し込んだ一筋の光にも見えた。雷鳴かもしれないけれど。
……会えなかった10年間、先生はどんな人生を過ごしたのだろう。結婚したのかな。子どもがいたりして。
彫りの深い顔はしているけど、女子に受ける顔じゃない。いつも目付きが険しかったからか、先生のことを好きだっていう女子の噂は聞かなかったけど、まさか教え子と?
いや、私は一体何を考えているのだろう。
「こうして桜井先生と酒を酌み交わすとはなあ。俺も歳をとったもんだ」
「先生、昔と全然変わってませんよ。っていうこの一連の会話が多少年寄りじみていますね」
私は少しずつだが確実にアルコールを摂取していった。そのたびに心のタガが外れていくような気がする。先生も少し顔に赤みがさしているように見えた。
「年寄り、か。確かに時代は変わったな。大学生相手にノンビリ授業してる間に、学校現場も様変わりしたよ」
(先生は結婚してるんですか)
聞きたいけれど、聞けない。頭の中がグルグルと勝手に動き出し、自分でコントロールできなくなっていった。
先生が校長先生として戻ってきて、こうして私のグラスにビールを注いでくれている。待ち望んでいたような、やっぱり困るような。注がれるままに、私は慣れないビールを飲み干した。
*
「桜井……先生、大丈夫か?」
「の、飲みます――ハイ」
「じゃなくて、帰れるかって聞いてるんだ!!」
私は我に返ると、お店の外に立っていた。いつの間にか歓迎会はお開きになっていたらしい。みなそれぞれ家路につき、残っているのは数人の先生だけだった。
「桜井先生大丈夫? タクシーで帰った方がいいんじゃない?」
養護教諭の白柳先生が声を掛けてきてくれた。でも、うまく返事ができない。
「歩いて、電車で、帰りますので……」
私の青い顔を見て、白柳先生はタクシーを呼んでくれた。ここからだと私の家はずいぶん遠い。いくらかかるんだろう。そんなこと言っていられないくらい足元がおぼつかず、駅まではとても歩けそうもなかった。
「桜井先生、俺が飲ませすぎた。飲めないなら飲めないって言えよ」
「いえ、大丈夫です......慣れてますから」
先生は私を半ば無理矢理タクシーに乗せて、自分も隣へと乗り込んだ。
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