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タクシーに乗るなり、私は反論をした。
「先生と私の家は反対方向ですよ、いいんですか? 先生の家は西区のF駅でしょ? うちは北区ですよ」
先生が不審者を見るような目つきで言う。
「なんで俺の家の住所を知ってる」
「先生、言ってたじゃないですか。駅がどうとか実家が酒屋とか一人息子だとか――」
「……よく覚えてるな、お前」
「覚えてますよ、当たり前じゃないですか。ずーっと先生の話、真面目に聞いてたんですから」
「そうだったな。いつも真剣に俺の方にまっすぐ視線を向けてたのを覚えてるよ」
ふうと、大きな息を吐くと先生は背中をシートに預けた。
「先生の授業がおもしろくって、真面目に聞いてたら成績も上がって。先生のせいで私は教師になったんですから、責任取ってください!!」
「俺のせい? ……どういう意味だ」
「それは……先生が国語がずーっと得意だったら国語に携わる仕事しろって。私はその言葉が忘れられなくて」
「……あぁ、それなら覚えてるさ、確かに言った」
(え、覚えてる?)
意外な返答に言葉が出てこなかった。
「俺の言葉どおり、教師になったのか? お前」
「そうです」
先生と視線がぶつかった。高校生の頃から変わらない鋭い目つき。怖いっていう人もいたけど、なぜだか今の私にはちっとも怖くない。
「お客さん、着きましたよ」
沈黙を破ったのは、タクシーの運転手だった。
マンションの近くでタクシーを降りると、足元がふらふらとおぼつかなくなっていた。タクシーに乗っている間に酔いがさらにまわってきたらしかった。
先生は私を部屋まで送っていくと運転手に告げ、タクシーを降りた。
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