心に

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心に

 池から戻ることのできた次の日、家の前の切り株に座り縄をなっている勘太郎に、平次郎が取り巻き達と近づいてきた。わざわざ家まで来るのか、と勘太郎はため息をついたが、いつもと様子が違う。意地悪な笑みは浮かべていない。心なしか顔がはれ上がっている。 「おい、勘太郎!」 「なんだよ。」 悔しそうにぎりりと隙間だらけの歯を食いしばって、平次郎は勘太郎を見た。 「あの話、嘘だからな!おっとうに、そうお前にちゃんとそう伝えろって言われた。」 「なるほど。あの話を俺にしたこと、お前叱られたのか。で、折檻を受けた。」 平次郎は一瞬きっと勘太郎を睨みつけてから、くるりと背を向けて「ちゃんと伝えたからな!!」と怒鳴って行ってしまった。 今回の件で平次郎達が自分をいじめることを、懲りてくれるといいと思った。しかしたとえ、そうならなかったとしても、勘太郎は以前ほどは寂しく切ない気持ちにならないと思った。 胸の辺りにある巾着をそっと握る。石の固い感触がある。 母と父にはもう会えない。触れられない。けれど、自分が今も大切に思われているということを勘太郎は感じることができる。 大事な人の想いを胸に、自分は力強く生きて行くのだ。 さわさわと、冷たくも爽やかな秋の風が、勘太郎の頬を撫で通り過ぎて行った。
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