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真実
ずぶ濡れのまま帰った勘太郎を見て、祖母は驚いていた。
「川に落ちたのかい?それとも、もしかして…。」
着替えを済ませた勘太郎は、祖母にありのままを話した。
「釣りに行くって嘘ついてごめん、ばあちゃん。」
祖母は冷え切ってしまった勘太郎の手を取り、首を振った。
「ばあちゃんの方こそ、ごめんねぇ。」
そう言って祖母は、今まで勘太郎に黙っていたことを話し出した。
鏡池は、つい先ほど勘太郎が体験した通り、その人の望むものを見せ、その人を飲み込んでしまうというものなのだそうだ。祖母はそれを知っていた。昔、勘太郎と同じように偶然戻ることができた人がいたらしい。ただ、そんな恐ろしい話を聞いても、それでも会いたい人、見たいものがあると言って池に行ってしまう人々がいたのだそうだ。そして、みな、池に喰われてしまった。だから、この真実を知る者たちは、次の世代には伝えないようにしようと少し違う形の言い伝えにして鏡池のことを話した。
「帰れた人って、名主のばあさま?」
「それはまた違って…その話があってますます被害が増えたんだけどね…。」
名主のばあさまは、池に行きたくて行ったのではない。偶然道に迷って着いてしまったらしい。しかし、彼女には会いたい人や見たいものがなかった。ただ、貧しい自分のうちの両親に楽をさせてあげたいという願いを持っていた。鏡池はただそこに、美しい水面に景色を映していただけだったそうだ。池から生還してすぐ、彼女と名主の主の縁談話が持ち上がった。
「それって…池で何も見えない人は願いが叶うってこと?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でももし、池のおかげでそうなったのなら、ばあちゃんが思うに、叶えられる願いは、自分の欲ではなく他の人の幸せを願ったものなんだよ。」
祖母は優しく勘太郎の手をさすった。
「ばあちゃんはね、あんたが自分の親に会いたいって願うと思ったんだ。それは悪いことではない。でも、きっと、池にとっては格好の餌食なんだよ。だから本当のことを言わなかった。ごめんねぇ。」
勘太郎はぶんぶんと首を振った。祖母の言う通りだ。自分は両親の姿を願った。それに、本当のことを聞いたところで、きっと自分は両親の姿を追って鏡池に行っていたことだろう。
「おっかあとおっとうには会いたいけど…喰われたくないからもう行かないよ。それに、おらにはこれがあるから。」
勘太郎は祖母に石を見せた。
「あの時助けてくれたんだ。きっと二人はおらのこと見守ってくれてる。」
祖母はうるんだ瞳でうんうんと頷いた。
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