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ある夏の放課後、家では集中できないと教室に残って勉強をしていると、早川先生が気まずそうにやってきた。
「水瀬、話がある」
私が首をかしげると、早川先生は小さく口を開く。
「申し訳ないが第一志望の大学、やめておいたほうがいいんじゃないか?」
「え?」
「お前には難しいよ」
唖然とすると、担任の先生は私の前の席に座る。黙りこみ、じっと見つめるので、私は目を泳がせてしまいながらも、口を開く。
「どうして……?」
「最近勉強しすぎで倒れることもあっただろ?」
「確かにありました。でも……」
「行きたい大学を変えても西島に会えないわけじゃないだろ?」
「私は、彼と同じ大学へ行きます」
「留年したらどうする?」
「留年……?」
「他の道も考えろ。アナウンサーになる道は別のルートでもある。そっちのが全うな道だ」
私は口を閉じて、また静かに開く。
「……全うな道って何ですか?」
「俺だってこんなこと言いたくないけど、現実を見ろって言ってる」
「嫌です」
「水瀬」
「先生には私の未来が分かるっていうんですか!? 私の道を勝手に決めないでください!!」
「でも、他に希望するところだって……」
「私の選択は一択です。他の道はありません」
「そう……また、倒れないといいな」
早川先生は教室を出ていく。
分かってはいたけど、受験は思う以上に過酷だ。
でも、受かって卒業したい。
私は、西島先輩に会いたい。
『誰かの声になれる、アナウンサーになりたい』
あの声を思い出す。
……ねえ、西島先輩。
迷っても歩いたら、私はあなたのような人になれますか?
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