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早川先生の言葉で毎日意味もなくロッカーを開け閉めする日が増えた。
ここには西島先輩が私に残した世界がある。
一緒に過ごした時間は戻らない。
そして、もう彼に会うことはない。
やはり必死にやっても無駄というのが答えなんだろうか……?
気配に気づいて横を見ると、海が立っていた。
「だめじゃんか。ロッカー見てぼーっとしてる場合じゃないんだろ?」
海は私のロッカーに視線を向けている。
「でも」
「何へこんでるの?」
「……進路やめておいたほうがいいって、先生が……」
言葉に詰まると、海はため息をつく。そして私を見た。
「遥、元気付けてあげようか?」
「え……何?」
小さく口を開くと、海はロッカーを見た。
「『大好きな青空には、雲が一緒にいる』」
「それ、西島先輩の……」
「ごめん。あの時聞いてたんだ」
「そう……」
「……もう鈍感だから言うな。『大好きな青空には、雲が一緒にいる』って言葉は『大好きな遥には、俺が一緒にいる』って意味だったんじゃね?」
「え……?」
「……ま、今一緒にいるのは俺だけど」
海は口を尖らせながら続ける。
「別に応援したくない。でも忘れるな。別のもので補おうとするな。遥にはなりたい遥がいるんだよな?」
『ねえ、水瀬』
海の言葉の後、西島先輩の声がよぎる。
ロッカーの前では笑っていられたはず。
でも今は、ポロポロと涙が出るんだ。
「うん」
いけないと分かっていても、不安に潰れそうになる。そう……弱い気持ちに流されてはいけない。
私は西島先輩のようになりたい。
立ち向かわなければならない。
「遥」
「うん」
「俺も、雲になりたかったんだ」
「どういう意味?」
「なりたくてずっと青空の側にいたけど、急に別の雲が邪魔してさ『雲は一つでいい』なんて言うんだ。で、青空は嬉しそうに輝くんだ。ひどい話だろ」
「う……ん?」
「……すっと意味を理解しないのが、遥っぽい」
「どういうこと?」
「ばーか。まあ、頑張れ」
「うん」
だからこそ、必死に必死に勉強した。
そして私の卒業式がやってきた。
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