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ロッカーを見つめ、刹那に思う。
大学受験は体調不良もなく……合格することできた。
私は今日、アメリカに旅立つ。
……会いに行く。
そこへ海がやってきた。
「行っちゃうんだな、アメリカ」
俯く海を見て、私も目を合わせられなくなる。
「うん。色々ありがとう」
間があったあと、声がする。
「遥、お願いがある」
「うん」
「俺もロッカーデコして?」
「え?」
「卒業生にしてもらえるのやっぱいいなって思って。遥にしてもらえたら、俺もロッカー開けるたびに勇気でる」
なるほどと思い、私は頷く。西島先輩に聞かれた言葉をそっと思い出す。そして同じように言葉にする。
「どんなデザインがいい?」
「遥と同じ青空で。遥の宝物を俺にも教えて」
「うん。ねえ、海」
「ん?」
「……分かってたよ。海が雲になりたいって意味」
「え?」
「でも、どう答えていいか分からなくて……」
口ごもると、海は微笑む。
「遥の答えは分かってたよ。俺も頑張るから遥も遥の道を頑張れ」
「うん」
二時間かけて海にロッカーデコをして、私はアメリカ行きの搭乗ゲートは開く。
トランクを引きずり、合格通知を持って。
アメリカの大学が始まるまでまだ時間はある。でも西島先輩と同じように早めに現地に馴れるため、私は今日、このロッカーの搭乗ゲートから旅立つ。
西島先輩は、私を覚えているだろうか。
フライトは約二十時間。
アメリカに着き疲れはててはいたが、私は西島先輩のいる大学へと向かう。
日本との時差は十四時間。
現在は、午後十二時。門の前に立つ。
ちょっと怖じ気づく。
本当にアメリカに来てしまった。
同じ大学へ来たら、嫌がられるかもしれない。
門の前で、西島先輩と目が合う。
「水瀬……?」
「西島先輩!」
「水瀬!」
走ってぎゅっと抱きしめてくれた。
西島先輩から、シトラスの優しい匂いがした。
「受かったんだ」
「受かりました」
「良かった」
抱きしめてくれる力が少し強くなった。
「水瀬、会いたかった」
温かい西島先輩の思いが心に浸透する。心の底から良かったと思えた。……嫌われてなくて。
「私もです」
「ずっと、後悔してた」
「え?」
「一年前の卒業式で、水瀬の連絡先聞いておけば良かったって。でも一年の間で水瀬の気持ちが変わることだってあるから進路変えたいってなった時に、負担になるといけないと思って」
「私のために、聞かなかったんですね」
「……英語話せるようになった?」
「はい。なりました」
西島先輩は微笑む。
「そうだ、西島先輩。私、海にしてきました」
「え? 何を?」
「ロッカーデコ、です」
「……受け継がれたんだ」
「はい」
「そうなんだ」
「ずっと受け継がれるといいです。西島先輩の思いが」
迷いながらも、彩りを重ねていた日々。
ロッカーの搭乗ゲートから旅立った日。
「ねえ、水瀬。連絡先……教えて?」
「もちろんです」
分かったことは、羽ばたくためにどんな感情を持ち合わせても、扉を開け閉めし続けなければならないってこと。
小さな世界を旅立った今日。
あのロッカーデコから。
今後も形にするために、
『なりたい』は未来に続いていく。
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