卒業ロッカーデコレーション

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 私の通う田舎町の高校は、全校生徒九人。  校舎は広く、入学してから卒業までの三年間、音楽や美術、体育などの移動授業以外は全校生徒で一つの教室を使用する。  教室はほどよく広いし、勉強は先生や先輩に丁寧に教えてもらえる環境にあり、入学してから不満は一切ない。  今年の春、小さな問題が起きた。  原因は、教室内にある鍵付きロッカーだった。  四月に二人卒業して、今年の一年の入学は三名。そのため、ロッカーの数が一つ足りなくなってしまった。スペースはたくさんあるが、万が一の盗難を防ぐため、教科書を置いて帰る『置き勉』は、必ず鍵のかかるロッカーに入れるのが決まりだ。 「ロッカー争奪戦です。一回戦勝負な。出さないと負け。じゃーんけーん……」    早川先生の発言で急遽始まるじゃんけん大会。いつの間にか出来ていたクラスの輪に慌てて混じり、私は押し出すようにチョキの手を出す。あっという間に一人負けした三年の西島聖(にしじまひじり)先輩が隣の教室のロッカーを使用することになって、速やかに問題は解決された。  でも、私は思う。  毎日教科書のために隣のクラスに行くのなんて、絶対に大変だと。だからその日の放課後、私は西島先輩に提案した。 「西島先輩、ロッカー半分こしません?」 「……半分こ?」
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