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嘘をついたから嘘が帰ってきた
「太郎くんと付き合ってるんだってね!」
一体何の話かさっぱりわからなかった。
もう本当に意味不明で、しかも太郎って誰?、なレベルだった私が困惑しているとそれを照れに取られてしまい「もー、教えてくれたらよかったのにー。でもわかる、アイツと付き合ってるって知られるのはちょっとハズイ」とニヤニヤしながら彩音に言われ益々私は困惑……どころか、少し恐怖すら感じていた。
この時ばかりは、疑問を正直に即座に告げる自分の性格がとてもありがたかった。
「ねぇ、太郎って、誰」
私の声が心なしか震えていたからだろう。
彩音は何かを察したらしく「え」と言った後しばらく間を空け「ま、待って、ごめん、やばいかも」とサッと青ざめて私の手首を引いた。登校したところなのでカバンを持ったまま教室から出る羽目になった私はそのまま人気のない渡り廊下に連れていかれる。秋の近づく季節であったため、吹き抜ける風が膝が丸見えの足に少し寒かった。
「ねぇごめん。隣のクラスの斎藤太郎って知ってる?」
人が出来るだけ少ない場所に来てから振り返った彩音が言った。フルネームを言われて、私は「あ」と思い出した。彩音は違う小学校出身だから知らないが、太郎は私と同じ小学校だった男子だ。何故か奇跡的に6年間同じクラスだったから名前は憶えていた。
「同じ小学校だった奴だけど……あいつが、何」
私の言葉にはかなり嫌悪感が混ざっていたと思う。彩音が最初にニタニタ笑いで近づいた時からもうすでにしていた嫌な予感は確実なものになり始めていた。何より、さっきはあんなに『面白いもの見つけた!』といった顔をしていた彩音が、今では『やばいものを見てしまった』という恐怖と焦りが入り混じった表情をしていたのだから。
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