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「太郎が……皆に言ってたの」
彩音は寒さなのかそれとも罪悪感からなのか色のなくなり始めている唇を震わせて言った。
「俺は由恵と付き合っている、て」
聞いた瞬間、ハンマーで直接脳を殴られたような鈍痛が走った。
――斎藤太郎
眼鏡をかけたおぼっちゃまヘアのロボットオタク、と皆に言われ目立ってはいたけど悪目立ちという方向にいってしまい少々毛嫌いされていた。ただ、私は「皆仲良しが当たり前」だったので、誰もが、とくに女子たちが太郎に近づくのを毛嫌いする中、私は他の人と接するのと同じように太郎に接していた。ただ、運動が好きな私に対し太郎は運動が苦手だった。だから同じ遊びは殆どできなくて、数回ほど他の男子に混ざって腕相撲をやったくらいだった。
えらくしっかり手を握ってきて気持ち悪いな、と思っていた彼の顔を思い出しはじめた私は頭痛と共に吐き気を催していた。心臓が変な動き方をしていて気持ち悪くてたまらなかった。
「……嘘、だよね」
藁にもすがる思いで絞り出した声だった。
けれどそれも空しく、彩音は首を横に振り「ううん、本当……」と言ってハッと息を飲んで言葉を切った。
「彩音?」
不自然すぎる彼女の様子に私が顔を上げると「ここにいたのか」と背中から声をかけられた。
気持ち悪いぐらい心臓が跳ねて私は肩を震わせた。
それでもちゃんと真実を見極めるためにと振り向いた私は――ベッタリと油っぽいマッシュルームヘアの眼鏡男と目が合い身体が凍り付いた。
「皆に紹介するから来て」
「私は彼女じゃない!」
皆まで言わなくとも太郎が何を言わんとしているか分かった私は思った以上に大声で返した。それに太郎は驚いたように目を丸くしたけれど、すぐに「強がるなって」と私に一歩近づいてきた。
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